研究課題
基盤研究(C)
心房への伸展刺激は心房組織に様々な変化を生じさせ、心房細動の発生や維持に関与すると考えられている。本研究では心房に対して慢性的な容量負荷を与えるモデル動物を作製し、心臓の形態的変化、電気生理学的変化および心房細動の持続性について検討した。Wistar系ラットに動静脈瘻の作製手術を行い、術後1ヶ月以上経過した動物を用いた。動静脈瘻手術から日数が経過するにつれて心房細動の持続時間が延長し、3ヶ月のリモデリング期間を置くことで心房細動持続時間が術後1ヶ月の動物に比べて約3倍となった。このモデル動物では心房重量の増加と心房組織における線維化が観察された。心房におけるイオンチャネル発現を定量的PCR法にて計測したところ、モデル動物の IKur(Kv1.5)、Ito(Kv4.2)、IK.ACh(Kir3.1)、IK1(Kir2.2)およびCx43のmRNAはsham群より低値であった。また、モデル動物の左房筋活動電位の電位変化がsham群より低値であり、再分極が遅延していた。モデル動物では、心電図PR間隔とQRS幅の有意な延長、心房内伝導速度の低下および心房の有効不応期の延長が認められた。Burst pacingにより心房細動が誘発され、その持続時間はsham群に比べて有意に長かった。以上の結果より、心房に対する慢性容量負荷は心房拡大と心房内伝導遅延等の電気性理学的特性の変化を誘発し、これらの変化が心房細動の持続時間延長に寄与したと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
モデル動物の作成法は申請時点でほぼ確立していたため、本研究課題は円滑に開始することができた。しかし途中経過で、心房細動が長時間安定して誘発されるために必要な心房のリモデリング期間として3ヶ月程度を要することが判明した。これにより研究の進捗度はやや低下したかもしれないが、より綿密な研究計画を立てることで、ほぼ予定通りに実験を進め、必要なデータは確保できたと考えている。
現在臨床使用されている抗不整脈薬の効果を本モデル動物で評価する。さらに、初年度に得られた情報をもとに、治療標的と想定される分子に対する作用薬の有用性を順次解析する。慢性心房細動の誘発に相応しいリモデリング期間を経た動物を実験に用いる。心房細動の治療に用いられている代表的な抗不整脈薬(ピルジカイニド等)を本モデル動物に投与して慢性心房細動に対する効果ならびに電気生理学的作用を検討し、これらの薬物の特性ならびに課題を明確にする。前年度に実施したイオンチャネルの遺伝子発現解析により、一部のTRPチャネルに関して発現量増加が認められたため、このようなチャネルに対する阻害薬に関する検討を進める。また、薬物の心房および心室に対する作用選択性を同時評価可能なin vivoモデルを作成し、心房細動治療薬の心臓に対する安全性評価手法の確立を行う。心房筋と心室筋より単相性活動電位(MAP)を同時記録可能なモデル動物構築の検討を進める。麻酔したウサギの静脈より心臓内にカテーテル電極を留置することで、非開胸下で心臓の電気現象を記録する。有望薬物の心房および心室に対する作用選択性を実験的に示すことで、抗心房細動薬の心臓に対する安全性評価手法を確立する。
「現在までの達成度」の項に記したように、研究進捗の遅れが若干生じ、次年度使用額が発生した。本研究課題の遂行に必要な実験動物や試薬など消耗品の購入に研究費を使用する計画である。
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