本研究は、癌転移の病態の進展に活性酸素種が関与している点に着目し、活性酸素消去能と体内動態特性に優れた白金ナノ粒子を利用した転移性肝癌治療システムを開発することを目的とする。平成25年度までに、優れた活性酸素消去能を有する白金ナノ粒子の開発に成功し、その肝臓選択的な体内動態特性ならびに肝転移モデルマウスにおける治療効果について明らかにした。 平成26年度では、白金ナノ粒子による肝転移抑制機構を明らかにすることを目的として、マウス大動脈血管内皮細胞において過酸化水素により誘導される接着分子 (ICAM及びVCAM) の発現に及ぼす白金ナノ粒子の影響をリアルタイムPCR法により評価した。その結果、過酸化水素により誘導される接着分子の発現が白金ナノ粒子の添加により抑制されたこと、マウスを用いたin vivo実験においても同様の結果が得られたことから、白金ナノ粒子による肝転移抑制機構には活性酸素種消去を介した接着分子の抑制が寄与している可能性が示された。以上のことから、肝転移治療における白金ナノ粒子の有用性が実証された。そこで次に白金ナノ粒子の腎臓における安全性を腎臓組織切片を観察することで評価した。白金製剤であるシスプラチンを対照として投与した群では、腎臓において炎症性細胞の浸潤が認められ、腎障害が惹起されていることが確認された。一方、白金ナノ粒子投与群では、ほぼ正常な腎細胞が観察された。さらに、白金ナノ粒子投与時の全身毒性を評価する目的で、経日的に体重を測定したところ、シスプラチン投与群では体重減少が確認された。一方、白金ナノ粒子投与群では、体重増加が認められ、シスプラチン投与時のような食欲不振・悪心・嘔吐等の胃腸障害による全身毒性を惹起しにくいことが示された。以上より白金ナノ粒子は シスプラチンと比較して安全性の高い製剤であると考えられた。
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