研究課題
本年度の研究は,前年度明らかとなったトロンボモジュリン(TM)の遺伝子多型(SNP)と造血幹細胞移植治療成績との関連について,さらに詳細な検討を行った.1.日本骨髄移植推進財団から入手した非血縁者間同種骨髄移植患者とドナーのDNAを用いて,TMのSNP(rs3176123)と移植治療成績との関連をさらに詳細に検討した.その結果,再発低リスク群において,患者がCC型である場合全生存率(OS)が改善し(P<0.10)、さらに患者およびドナーがCC型である場合治療関連死亡率(TRM)が減少することを明らかにした.2. 健常人の末梢血より採取したDNAおよびmRNAのTM SNPによる各アレルの発現量の割合を定量したところ、DNAと比較してmRNAのCアレルの割合が有意に多かった。すなわちCアレル保因者はAアレル保因者に比べTMの発現量が多いことが示された.3. これまでに骨髄移植後合併症は,前処置レジメンやドナー細胞,免疫抑制剤の投与などによる血管内皮傷害が関与すると考えられている.そこで,放射線刺激による血管内皮細胞のTMの発現への影響をin vitroで検討した.その結果,放射線刺激によりTMの発現が減少し,凝固惹起因子である組織因子(TF)や接着因子であるe-selectinの発現が増加した.4. 次に,放射線照射前にあらかじめTMを投与しておき,放射線照射による内皮細胞傷害からの保護効果について検討した.その結果,TM投与群では放射線照射後のTF発現量が抑制された.本年度の研究より,骨髄移植の際の放射線前処置により血管内皮傷害が生じてTMの発現が低下するが、TM発現量が多いSNPを有する患者では、TMの残存量が多いため、移植後転帰が良好であったと推測される。また,リコンビナントTM製剤の前投与は,移植後の凝固活性化を抑制し,移植関連合併症を改善する可能性が示唆された.
2: おおむね順調に進展している
1.TMのSNP(rs3176123)とOSならびに治療関連死亡率との関連性を明らかにした点は,移植関連合併症予防につながる発見である.2.血管内皮細胞を用いたin vitroの検討:放射線照射によりTFやE-selectinが著増し,TMの発現が減少したことを示し,移植関連合併症の発症機序の解明につながる可能性がある.また,TMの前投与による合併症の予防効果の可能性が示された点は,今後の予防対策につながる結果である.一方,GVHD発症造血幹細胞移植モデルマウスを作製し,HO-1による発症予防効果を検討する実験に関しては,現時点ではまだ着手できていない.
1.日本骨髄移植推進財団から入手した非血縁者間同種骨髄移植患者とドナーのDNAを用いて,さらに凝固・線溶系パラメーター,炎症性サイトカインなどについてSNP解析を行い,移植治療成績との関連を検討する.2.造血幹細胞移植モデルマウスを用いたHO-1による発症予防効果のin vivoの検討:造血幹細胞移植モデルマウスを作製し,放射線照射前に,HO-1を誘導するスタチン製剤を投与し,非投与群と以下について,比較検討する.(1)血液検査:凝固・線溶系マーカー,血管内皮傷害マーカー,炎症性サイトカイン,(2)各種臓器(肝臓,腎臓,小腸)におけるHO-1および凝固・線溶系因子のmRNA・タンパク発現,(3)臓器傷害の評価:移植マウスの小腸,腎臓,肝臓を切除して組織切片を作成し,リンパ球接着や,フィブリン沈着の程度などを評価する.
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日本検査血液学会雑誌
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別冊日本臨床 新領域別症候群シリーズNo.22
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