研究課題/領域番号 |
24590689
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 茂和 浜松医科大学, 医学部附属病院, 講師 (20303547)
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研究分担者 |
松下 明生 浜松医科大学, 医学部附属病院, 助教 (50402269)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | thyrotropin / thyroid hormone / GATA2 / transcription / TRH |
研究概要 |
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は甲状腺ホルモン(T3、T4)の整数的変化に対して指数関数的に減衰する(リニアー・ログの関係)。本研究ではその分子機構の解明を目指す。 ①gonadotroph由来のLβT2細胞はTSHα鎖(TSHα)遺伝子を発現している。この細胞では転写因子GATA2の内因性の発現を認め、このGATA2がTSHαプロモーターのGATA応答配列を介してTSHαの転写を維持している。また甲状腺ホルモン受容体(TRβ2)も発現しており、T3によってGATA2の転写活性化能は抑制されると予想される。今回、私達はT3によってTSHαmRNAが低下することをRT-PCRで確認した。興味深い事に血球系や胎盤ではGATA2遺伝子はGATA2自体によって活性化される。実際、LβT2細胞のGATA2mRNAもまたT3によって負に調節された。またGATA2蛋白の発現もT3添加によってほぼ検出感度以下に抑制された。この事はT3がTRβ2を介してGATA2自体の転写を負に調節していることを示唆した。 ②視床下部における甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の発現もまたT3で負に調節される。このTRHへの負の調節もまたT3濃度とリニア・ログの関係になるという報告がある。またTRHを発現している傍室核の発生には転写因子Sim1が関わるが、Sim1またGATA2とTRβ2の発現を誘導する事が知られている。この事は私達が下垂体TSH産生細胞で予想したGATA2を介する機序が視床下部でも起こり得る事を意味する。現在、私達はpreproTRHプロモーターへのGATA2ならびにTRβ2の作用をレポーターアッセイにて検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究において私達は以下のような成果を上げている。 ①下垂体前葉細胞のうち、TSH産生細胞(thyrotroph)の発生を決定し、その機能(TSHβ鎖の発現)を維持するのはTSHβ遺伝子の活性化にかかわる転写因子Pit1とGATA2である。このうちGATA2が本質的な転写活性化因子であり、このようなGATA2の機能をPit1は保護していることを私達は報告している。私達はTSH産生細胞(thyrotroph)として報告されて来たTαT1細胞ではGATA2が少量しか発現しておらず、むしろLH/FSH産生細胞であるLβT2細胞の方が数倍多いGATA2発現があり、またTSHα鎖も発現している事を確認した。このLβT2細胞のTSHα鎖の発現はT3によって負に調節された。GATA2のmRNAや蛋白量もまたT3によって負に調節されていた。GATA2はユビキチン化によって30分程度で分解されるが、その阻害剤を用いてもなお、T3によるGATA2蛋白の発現抑制は観察された。これは翻訳以前のステップでT3による抑制が起こっている事を示唆する。実際、GATA2mRNAはT3によって抑制された。 ②preproTRHプロモーターはGATA2で活性化される事を確認した。現在、GATA応答配列の存在を確認中である。 ③T3による負の調節の分子機構の理解のためにはT3による正の調節との比較が不可欠である。私達はクロマチン免疫沈降法を用い、RNAポリメラーゼII(Pol-II)の挙動を負に調節されるTSHα遺伝子と正に調節される1型脱ヨード酵素(D1)遺伝子とで比較した。その結果Pol-IIはD1遺伝子ではT3添加で集積が増加したが、TSHα遺伝子ではT3によってPol-II密度の低下は認めず、いわゆるPol-II pausingの現象が起こっていると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
私達はかつてGATA2の転写活性化能をT3結合TRが抑制することでTSHβ遺伝子への負に調節が起こる事を報告した。この解析のため、私達は核受容体の正の調節の研究で頻用された腎由来CV1細胞を用いた。今回、GATA2遺伝子がGATA2自身でオートレギュレーションされる分子機構を解明するためには、やはりCV1細胞を用いた系が望ましい。そこでGATA2遺伝子のイントロン4のGATA応答配列を有するレポーター遺伝子を作製することを試みたが困難であった。GATA2遺伝子のオートレギュレーションについては血球系でMedicine大学医学部のBresnick博士、Boyer博士が詳細な検討を報告している。現在、彼らが作製したレポーター遺伝子の分与を交渉中であり、University of WisconsinとMTAを交換中である。またGATA2は転写因子Scl/Tal1と複合体を形成する事が知られており、既にScl/Tal1発現プラスミドを理化学研究所の遠藤充浩博士から 入手している。 実験系をよりin vivoに近づけるためLβT2細胞を用いてGATA2遺伝子のイントロン4のGATA応答配列におけるGATA2の結合をクロマチン免疫沈降を計画中である。既に実績のある抗GATA2抗体は東京大学先端科学技術研究センターの南敬博士から分与されている。 前述のようにGATA2はTSHβ遺伝子の主要な活性化因子であるが、それをコードするGATA2遺伝子がGATA2自身によって活性化されており、このポジティブフィードバックをT3結合TRは抑制すると考えられる。果たしてこのような機序が臨床的に観察されるT3-TSHのリニア・ログの関係を正確に記述可能なものであるか否かを検証したい。そのためにCV1細胞のレポーターアッセイの系から得られた実測値データに基づいて数理モデルを構築したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
①GATA2遺伝子についてはCV1細胞を用いたGATA2遺伝子のレポーターアッセイの系を構築する。さらに転写因子Scl/Tal1とGATA2の複合体形成の意義を検討する。またLβT2細胞を用い、GATA2、Pol-IIに対するChIPアッセイを行う。 ②preproTRHについては傍室核におけるGATA2の発現を免疫組織学的に確認する他、preproTRHプロモーターのレポーターアッセイによってGATA応答配列を同定し、従来からnegative T3-responsive 配列(nTRE)の機能が推定されて来たsite4の意義を確認したい。また内因性にGATA2とTRを発現しているニューロン由来培養細胞は複数知られており、これらを用いた検討が必要である。 ③私達のコンセプトはグルココルチコイドによる下垂体副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)への負の調節の分子機構解明の糸口になる可能性がある。ACTHの前駆体であるPOMC遺伝子の転写は転写因子Nur77によって維持されている。グルココルチコイド受容体(GR)はグルココルチコイド存在下で転写因子NFkB、AP-1の転写活性化能を阻害する事は良く知られるが、興味深い事にNur77のプロモーターにはNFkB、AP-1の結合配列が存在する。私達はPOMCプロモーターを有するCATレポーター遺伝子ならびにPOMC産生AtT20細胞を入手し実験計画の検討を進めている。
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