研究課題/領域番号 |
24590689
|
研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 茂和 浜松医科大学, 医学部附属病院, 講師 (20303547)
|
研究分担者 |
松下 明生 浜松医科大学, 医学部附属病院, 助教 (50402269)
|
キーワード | thyrotropin / thyroid hormone / GATA2 / transcription / TRH |
研究概要 |
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は甲状腺ホルモン(T3、T4)の整数的変化に対して指数関数的に減衰する(リニアー・ログの関係)。その分子機構の解明が本研究の目標である。TSHはα鎖(TSHα)とβ鎖(TSHβ)のヘテロ2量体であり、両者の発現はT3結合したT3受容体(TR)によって転写レベルで抑制される。転写因子GATA2はTSHαプロモーターのGATA応答配列を介してmRNA発現を活性化する。私達の解析から、T3結合TRはGATA2と直接相互作用してGATA2の転写活性化能を抑制し、その結果TSHαが転写レベルで抑制していることが明らかとなった。TSHαを産生する下垂体細胞株としてLβT2細胞が知られている。この細胞では転写因子GATA2ならびに下垂体に特異的なTRであるTRβ2も内因性に発現している。予想通りT3によってTSHαのmRNAが低下することを私達はRT-PCRで確認し得た。一方、血球系ではGATA2遺伝子はGATA2自体によって活性化される(ポジティブフィードッバック)。興味深い事にLβT2細胞のGATA2mRNAもまたT3によって抑制された。さらにGATA2蛋白の発現もT3添加によってほぼ検出感度以下に抑制された。これらはT3がTRβ2を介してGATA2自体のポジティブフィードッバックを抑制することがリニアー・ログの関係の基盤になっている可能性を示唆する。私達はまず、TSHα、βとGATA2、TRHの系で解析を勧め、数理的なモデルを確立して、これを核受容体が関わる他の負の調節、例えばグルココルチコイドによる下垂体副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)への抑制機構の解明に繋げたいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)私達はかつてGATA2の転写活性化能をT3結合TRが抑制することでTSHα遺伝子への負の調節が起こる事を報告した。この解析では核受容体の正の調節の研究で頻用された腎由来CV1細胞を用いた。GATA2遺伝子のそれ自身によるポジティブフィードバックの機序の解明においても共通の実験系の採用が望ましい。そこでGATA2遺伝子のイントロン4のGATA応答配列を有するレポーター遺伝子の作製を試みたがこの領域をPCRで増幅することは極めて困難であった。そこで血球系でのGATA2遺伝子の制御について実績のあるウイスコンシン大学のBresnick博士に依頼しルシフェラーゼベースのレポーター遺伝子を入手した。ただし従来のルシフェラーゼ遺伝子には負の調節のアーチファクトを起こす可能性があり、現在CATベースのレポーター遺伝子を作製中である。 (2)甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の視床下部における発現もまたT3で負に調節され、このTRHへの負の調節もまたT3濃度とリニア・ログの関係になるという報告があった。従ってTRHへの負の調節もまた本研究題目の一つの要素として解析する事となった。TRHは傍室核で発現し、その発生には転写因子Sim1が関わる。興味深い事にSim1はまたGATA2とTRβ2の発現を誘導する。この事はGATA2を介するTSHに類似の機序が視床下部TRHニューロンでも起こり得る事を意味する。現在preproTRHプロモーターをCATベースのレポーター遺伝子を作製し解析中である。 (3)T3でTSHαプロモーターは抑制される事からクロマチン免疫沈降法で転写開始点でのRNAポリメラーゼII(Pol-II)の状態を検討した。しかし予想に反しT3によってもPol-IIの減衰はなkatta負の調節は転写伸長の段階で起こっている事が予想された。現在その機序について解析中である。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)GATA2遺伝子についてはCV1細胞を用いたGATA2遺伝子のCATアッセイの系を構築する。さらに転写因子Scl/Tal1とGATA2の複合体形成の意義を検討する。またLβT2細胞を用い、GATA2、Pol-IIに対するChIPアッセイを行う。またPol-IIの挙動についても検討する (2)preproTRHプロモーターについてはCAT遺伝子に融合したレポーター遺伝子を作製した。これを用いて(a)GATA2の転写活性化作用とT3結合TRによる負の調節を検討し、さらに(b)preproTRHプロモーターのレポーターアッセイによってGATA応答配列を同定する。また(c)従来からnegative T3-responsive 配列(nTRE)の機能が推定されて来たsite4の意義を確認したい。これと平行して(d)傍室核におけるGATA2の発現を免疫組織学的に確認する予定である。また内因性にGATA2とTRを発現しているニューロン由来培養細胞は複数知られており、これらを用いた検討を計画中である。 (3)前述のようにGATA2遺伝子がそれ自身によって活性化されており、T3結合TRはこのポジティブフィードバックを抑制すると考えられる。果たしてこのような機序が臨床的に観察されるT3-TSHのリニア・ログの関係を正確に記述可能なものであるか否かを検証したい。そのためにCV1細胞のレポーターアッセイの系から得られた実測値データに基づいて微分方程式をベースにした数理モデルを構築したい。 (5)グルココルチコイド(GC)は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の前駆体であるPOMCの転写を負に調節する。またGC受容体(GR)はGC存在下で転写因子NFkB、AP-1の転写活性化能を阻害して免疫や炎症を抑制する。最終的にはTSHで得られた知見を基盤として数理モデルを確立したいと考えている。
|