研究課題/領域番号 |
24590719
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
佐藤 哲子 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 糖尿病研究部, 研究室長(臨床代謝栄養) (80373512)
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研究分担者 |
小谷 和彦 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60335510)
長谷川 浩二 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 展開医療研究部, 部長 (50283594)
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キーワード | マクロファージ / 糖尿病 / 肥満症 / 炎症 |
研究概要 |
本研究では、糖尿病と肥満症コホートと各科との連携を基盤に、ヒト末梢血単球、ヒト頸動脈硬化巣、マウス内臓・皮下脂肪組織、腎生検サンプル、ヒト単球系細胞株を用いて検討を行った。 1、頸動脈内膜剥離術施行合計49例(非糖尿病31例、糖尿病18例)(昨年より26例増加)において、末梢血単球と摘出プラークにおける炎症性M1マーカー(IL-6・TNFα)、抗炎症性M2マーカー(IL-10)や接着因子(ICAM-1・VCAM-1)の発現の詳細な検討の結果、糖尿病や肥満症ではプラークへのマクロファージ(Mφ)浸潤が増加すると伴に、単球・プラーク内MφのM1上昇/M2低下が起こることを認め、これらが頸動脈硬化症を進展させる可能性を見出した(論文投稿準備中)。 2、2型糖尿病24例において、DPP4阻害薬・シタグリプチンの3ヶ月投与により、血中GLP-1濃度の上昇、血糖、HbA1c、酸化LDLやhsCRPの有意な低下と動脈硬化指標・CAVIの改善傾向、更に、末梢血単球中のIL-10の発現上昇とTNFαの発現低下を認めた(Metabolism 62, 2013)。DPP4阻害薬・ビルダグリプチンや脂質異常症治療薬であるスタチン製剤・ピタバスタチンについても同様の解析を進めている(各16, 23例)。作用機序の検討において、8週齢のC57BL6Jマウスに高脂肪食負荷を行い、exendin-4(Ex-4)またはEx-9の4週間投与の結果、Ex-4投与群では、他群より腹腔内Mφの接着能・遊走能の低下を見出した。ヒト単球系細胞株THP-1由来Mφの解析においては、酸化LDLにより脂肪滴蓄積が促進されること、活性酸素種O2-産生量が増大することを認め、更に、酸化LDLに起因するこれらのストレスは、Ex-4処理群では対照群に比し有意に抑制されることを明らかにした。以上より、インクレチン関連薬により単球/MφにおけるM1/M2タイプや接着能/遊走能、細胞ストレスが改善され、抗動脈硬化作用に寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、2014年4月時点で肥満症・MetSの多施設共同前向きコホート登録数が目標例数・1000例を超え、1334例(2013年4月時点では1275例)に達し大規模データベース構築に成功している。また、研究計画にあった評価項目の検討も順調である。また、追跡調査においても80%前後の追跡率を維持し、5年追跡症例数も650例に達している。5年間での脳心血管イベント発症は29例確認している。 2、申請者は、インクレチン関連薬によるMφ機能改善効果を報告し、英文論文としてアクセプトされている(Satoh-Asahara N et al. Metabolism 62:347-351, 2013)。また、他の生活習慣病薬によるMφ機能改善効果の解析も同様に推進している。 3、京都医療センター脳神経外科との連携により得られた頸動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy: CEA)施行例の頸動脈硬化巣(粥腫/内膜)による検討も進め、糖尿病や肥満では、プラークへのMφ浸潤増加と末梢血単球・プラーク内マクロファージのM1/M2バランスの悪化が頸動脈硬化症を進展させる可能性について学会報告を行った(第33回日本肥満学会, 2012, 論文投稿準備中)。 4、動物実験においても腹腔内Mφの接着能・遊走能は高脂肪食負荷マウスでは悪化し、一方Ex-4投与によりそれらが改善することを学会報告した(第33回日本肥満学会, 2012)。 5、ヒト単球・Mφモデル解析においても、酸化LDLにより脂肪滴の蓄積や活性酸素種産生増加等の細胞傷害性ストレスが増大することを認め、一方Ex-4処理によりそれらが改善されることを見出した。現在作用機序の詳細な解析を行っている。 6、肥満・動脈硬化関連213遺伝子712SNPs遺伝子多型の調査が完了しており、Mφ機能異常に影響する遺伝素因の検討についても解析の準備を整えている。
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今後の研究の推進方策 |
I.臨床的研究:糖尿病・肥満症前向きコホートにおける縦断研究 (1)生活習慣改善や薬物治療による検討:減量・禁煙・薬物療法、特に新規糖尿病薬・インクレチンやPPARリガンド(TZDs・EPA等)、スタチン投与による単球・組織Mφ機能、TLRs/NF-κB伝達系の単球・Mφ中シグナル伝達分子活性化kineticsと心腎脳血管合併症の予後(新規発症・進展)の改善効果を追跡し、インクレチン等のMφ機能改善を介した新しい動脈硬化作用機序を解明する。 (2)単球・組織Mφ機能改善に関連する糖脂質・肥満・動脈硬化関連遺伝子SNPsの同定:上記減量・薬物治療による単球・Mφ機能改善に寄与するSNPsを同定し、オーダーメイド医療を目指す。 II.細胞・動物レベルの検討 (1)インクレチンやスタチン等の生活習慣病薬による組織Mφ機能改善効果の検討:肥満・動脈硬化モデルにて上記薬剤を投与し、血中単球・組織Mφの遊走能・接着能・M1/M2比及び脂肪分解・泡沫化因子の発現変化、炎症性刺激に対する応答能の変化を検討し、炎症・動脈硬化進展抑制効果を検討する。ヒト単球系細胞株THP-1由来Mφについても、酸化LDLと上記の薬剤処理とを組み合わせ、同様の検討を行う。 (2)TLR4及びMD-2KOマウスやTLR遺伝子操作マウスを用いて、遺伝性動脈硬化ApoE KOマウスと交配することにより、動脈硬化の発症・進展における当該分子の病態意義を明らかにする。血中・動脈壁・脂肪組織のMφ機能や脂肪酸分析を行い、PPARリガンドやインクレチンによる効果とその機序を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度中に実施を予定していた研究計画のうち、遺伝子改変マウスを用いた解析が期間内に終了しなかったため、当該計画の実施に必要な経費を次年度使用分とした。 以下の計画に基づいて研究費を使用し次年度研究計画を推進する。 1.消耗品:①ヒト・マウスホルモン測定(ELISAキット代・血液検査外注費):約15万円、②分子生物学関連試薬(MACS/FACSの抗体、PCRのプローブ・キット等):約15万円、③培養関連試薬(ウシ胎仔血清、メディウム、抗生物質等)(細胞実験):約10万円、④細胞機能解析関連試薬(遊走・接着能測定試薬、RNA調製試薬、定量PCR関連試薬、サイトカイン測定試薬、遺伝子導入関連試薬、ノックダウン関連試薬等)(細胞実験):約25万円、⑤飼育管理費(動物の購入代、管理代、餌代含む)(動物実験):約10万円。2.旅費:国内外の各学会での成果発表のための旅費:約10万円。3.謝金:研究補助員数名の実験補助代、外国語論文の校閲:約40万円。4.その他:印刷費・研究成果投稿料等:約5万円
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