研究実績の概要 |
本研究(平成24-26年度)では、知覚神経特異的TRPV2遺伝子欠損マウスを独自に作成し、その解析により成体(adult)の末梢神経系における非特異的陽イオンチャネルTRPV2の機能解明を試みた。その結果、研究期間を通じて以下のような成果を得た。(1), Cre-loxPシステムを利用した知覚神経特異的TRPV2欠損マウスの樹立に成功した。(2), TRPV2欠損マウスでは、最終的に成体にまで発生した後の知覚神経の種類と数および軸索伸長の程度に明瞭な異常は観察されなかった。(3), 感覚機能に関する各種動物行動試験の結果、TRPV2欠損マウスの熱痛覚は正常であったが、侵害的なレベルの機械感覚が減弱しており、機械痛覚への関与が示唆された。(4), 脊髄後根神経節(DRG)初代培養細胞のストレッチ応答を調べ、TRPV2欠損マウスでは、細胞内カルシウムレベルの回復が速く高閾値のストレッチ応答を示す細胞が有意に減少することを見いだした。これは、TRPV2の機械痛覚への関与を細胞レベルからも支持する結果であった。(5), 高強度の機械刺激によって神経活動マーカーのpERKが誘導される機械感受性知覚神経細胞を免疫組織化学的に調べたところ、その約36%のみがTRPV2陽性細胞であった。加えて、動物の機械痛覚関連行動および細胞レベルの機械応答ともにTRPV2欠損マウスで完全には消失しなかったことから、知覚神経にはTRPV2に依存しない別の機械応答も存在すると考えられた。 (6), TRPV2は神経の軸索伸長の促進や炎症病態への関与が報告されているが、神経損傷モデルマウスの知覚神経節においてTRPV2発現の増減は見られず、少なくともTRPV2発現量の変化を通じての神経損傷病態への寄与は少ないことが示唆された(最終年度研究成果)。以上の結果について、現在論文の投稿を進めている。
|