研究実績の概要 |
本年度は主として帯状回の機能について解析した。慢性疼痛下の情動系の反応に関しては性差が顕著であることも示されている。しかし、その成因メカニズムについては不明の点が多く残されている。痛みは他の感覚にくらべてきわめて特異な感覚であり、その最終的な認知までには多くの変調系が関与している。性差の原因にはこのような変調系も含めた複雑な要素が関与している可能性が高い。特に注目される変調系としては、抑制系としての内因性鎮痛系であり、その中でも下行性鎮痛系が最も強力とされている。特に、帯状回から中脳中心灰白質に対して下行性の鎮痛路が存在すること, 中脳から大縫線核に対して2相性の出力があること, 脳幹の外側網様体から脊髄後角に直接的に抑制性の情報が下行していることなどが明らかになっている。すなわち、下行性の鎮痛路の主要経路は帯状回を起始とすることが示唆され、その制御のもとに中脳中心灰白質ー大縫線核ー脊髄系が賦活されることが提唱されている。当該年度は、特にメスラットを用いて、性周期に連動した疼痛閾値、および帯状回の侵害応答の変化を解析した。新たな知見としては以下の結果が得られた。1)メスラットにおいて帯状回の応答は発情前期から発情期にかけて亢進した、2)オスラットにおいてはメスと同様の時系列で記録した帯状回の応答に変化は見られなかった、3)身体の部位によって、侵害応答の特異性が見られ、特に尾部を刺激した場合の応答が大きかった。従来の研究で、帯状回は下行性鎮痛系の起始部位のひとつであり、ここから中脳水道周囲灰白質ー大縫線核を経由して脊髄に至る鎮痛路が明らかにされている。今回の結果から、メスでは性周期で帯状回における応答に変化が見られることから、下行性鎮痛系の作動様式にも可塑的変化が見られることが示唆される。オスでは、下行性鎮痛系に時系列的な変化は見られないことも明らかになった。
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