多発性硬化症の実験動物モデルを用い、誘発される疼痛に対し種々の研究を行い、以下の実験結果を得た。 平成24年度:Oxycodoneは、morphineやmethadoneとは異なり、難治性疼痛である多発性硬化症疼痛の特効薬となりうる可能性が示唆された。また、多発性硬化症疼痛に対するoxycodoneの鎮痛作用には、一部κ受容体刺激が関与していることも明らかとなった。さらに多発性硬化症疼痛時には、内因性のκオピオイドシステムが亢進している可能性が示唆されたことから、多発性硬化症疼痛の緩和には、κ受容体作動薬あるいは内因性κオピオイドシステムを刺激する薬物が有効である可能性が示された。 平成25年度:多発性硬化症疼痛の形成時には、麻薬性鎮痛薬の鎮痛作用は減弱しているにもかかわらず、μ受容体の発現量ならびにタンパク量は変化しないことから、リン酸化によるμ受容体の脱感作が生じている可能性が示された。また、多発性硬化症疼痛の形成には、NMDA受容体の活性化が一部関与しており、このNMDA受容体の活性化により誘導されたμ受容体の脱感作が、morphineの鎮痛効果減弱に関与している可能性が示された。 平成26年度:多発性硬化症疼痛の形成前、形成過程、あるいは形成直後のいずれかの時点でNMDA受容体の拮抗薬を単回処置することにより、多発性硬化症疼痛のmorphine抵抗性が解除され、morphineの鎮痛効果が回復することを発見した。この現象は、数種のNMDA受容体拮抗薬で同様に確認されたことから、多発性硬化症疼痛の新たな治療方法になると考えられる。各種難治性疼痛のmorphine抵抗性は、臨床上大きな問題となっていることから、本現象が他の難治性疼痛においても認められた場合、難治性疼痛治療における画期的発見になると思われる。
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