研究課題
大脳皮質拡延性抑制(Cortical spreading depression :CSD)は、片頭痛発作の前兆に相当する現象と考えられ、脳血管障害における虚血巣周囲でも、相同の現象(Periinfarct depolarizations:PID)が起こることが知られる。これらの現象は、大脳皮質に対して障害性に働くため、この抑制機序を解明することは、片頭痛症状の改善や、脳虚血性疾患後の神経保護的な介入法を考案するための、重要な知見となる。本年度は、CSDの発生に頭頸部への疼痛侵害刺激がどのような影響を及ぼすかについて、前年度の成果を踏まえて更に研究を進展させた。本年度の研究における最も重要な知見は、三叉神経支配領域に形成したTrigger Point(TP)が、CSDの発生域値を低下させることを見いだした点である。TPは、片頭痛患者の頭頸部に形成されることが報告されているもので、いわゆる“コリ”として臨床上捉えられる症状である。興味深いことに、鍼灸医療(Acupuncture and Moxibustion)の領域において、このTP(=コリ)が片頭痛や脳血管障害の増悪因子として働いている可能性が、古来より経験的に指摘されている。しかしながら現在、その機構的な効果機序は明らかとなっていない。本研究の成果は、三叉神経を介したTPからの疼痛刺激が、脳表のCSDを“発生し易くしている”可能性を示唆するもので、未だEBMとして確立されていない鍼灸など代替医療の科学化にもつながる、重要な知見と考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
CSDの発生閾値に影響を与える要因につき、当初計画ではCapsaicinなどを用いた疼痛レセプターの刺激モデルのみを想定していたが、研究の進展により、TPのような筋組織の変化を介した知覚入力も、同様にCSDの発生閾値に対して影響を与えることが強く示唆されたため、本研究から得られる知見の重要性・汎用性が大きく広がった。
現在まで得られた重要な知見を踏まえ、三叉神経への慢性的な知覚入力が頭蓋内の硬膜神経や中枢神経に及ぼす影響に付き、更なる研究を進める。慢性的な知覚入力を起こすモデルとしてはTP形成モデルを活用し、硬膜神経や中枢神経系への影響については、生体イメージングの手法を活用して解析し、片頭痛や脳血管障害に対する新たな治療法の開発につなげる。
前年度までの研究の進展により、CSDの発生域値に対してTrigger Pointが重大な関与をしている可能性が示唆されたため、昨年度は予備実験に注力し、本年度の本実験実施のために必要なパラメータを取得に重点を置いた。計上された次年度使用額は、本年度の研究遂行のための計画的なものである。TP作成の急性期モデルは既に確立されており、本研究においても活用しているが、本研究の成果を発展させるために必要なのは、形成されたTPの慢性化機序解明であり、この研究には多数の動物および試薬類が必要である。本年度は、慢性化に至る時間経過を分子生物学的なパラメータを使用して解析する予定であり、これに次年度使用額として計上されたものを使用する予定である。
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