研究課題/領域番号 |
24590739
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
石橋 仁 生理学研究所, 発達生理学研究系, 准教授 (50311874)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 慢性痛 / 穿孔パッチクランプ法 / 細胞内クロライド濃度 / GABA / 大脳皮質 |
研究概要 |
申請者らは、慢性疼痛時に大脳皮質一次体性感覚野(S1)の興奮性シナプスの機能が上昇し、これによってS1の興奮性が上昇し、この変化がアロディニアの発現に重要な役割を果たしていることを報告した。一方、最近の予備実験から、慢性疼痛時には、S1のGABA(A)受容体の機能にも変化が生じていることがわかってきた。しかし、そのメカニズムや意義は全く不明である。本研究では、慢性疼痛時の大脳皮質一次体性感覚野で生じるGABA(A)受容体の機能変化とそのメカニズムを解明するとともに、その意義を明らかにすることを目的としている。本年度は、抑制性細胞に蛍光色素 Venus が発現したマウスを用い、興奮性細胞と抑制性細胞を区別して、まずホールセルパッチクランプ法を用いて S1 第 2/3 層の興奮性細胞へのGABA入力が、後足へフロイント完全アジュバント(CFA)を適用した慢性痛時にどのように変化するか検討を行った。 まず S1 第2/3層興奮性細胞におけるmIPSC と第2/3層刺激によるevoked IPSC の振幅、paired-pulse ratio 等についても検討を行ったが、正常群とCFA群で有意な差は認められなかった。従って、S1 第2/3層抑制性ニューロンから興奮性錐体細胞への入力自体には著明な差は認められないことがわかった。フィードフォワード抑制に関しては増強されている傾向が認められた。 一方、S1 第4層を刺激して、第2/3層抑制性ニューロンの活動をカルシウムイメージングにより観察すると、抑制性ニューロンの活動がCFA群で高いことがわかった。すなわち、慢性疼痛モデル群では、後足から視床を介して第4層入力する情報が慢性痛時に増強されており、その結果、第2/3層抑制性ニューロンの活動も高まり第2/3層興奮性ニューロンへのGABA入力を増加させていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、コントロールマウスおよび慢性疼痛モデルマウスから作製した脳薄切片(スライス)に、スライスパッチクランプ法を適用して、一次体性感覚野の第 2/3 層錐体細胞(興奮性ニューロン)へのGABA作動性抑制性入力の基礎的検討を行うとともに、カルシウムイメージング法を用いて抑制性ニューロンの活動変化についても検討する予定であった。 研究を開始した当初は、L2/3 層刺激の際に、興奮性線維を刺激して、その興奮性線維が L2/3 層抑制性ニューロンを活性化させて錐体細胞へIPSCを生じるフィードフォワード抑制と、L2/3層抑制性ニューロン自体を刺激して生じる IPSC を区別することが困難であったが、種々の条件検討を行った結果、興奮性入力を完全にブロックした状態をサブトラクションすることで解決した。また、カルシウムイメージングにおいても、大脳皮質S1の 4層刺激により、L2/3層抑制性ニューロンのカルシウム応答がCFA群で増強していることを見出した。 以上の様に、それぞれの実験でほぼ順調に成果があげられており、研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
GABAによる過分極は細胞内 Cl- 濃度に依存する。細胞内Cl- はKCC2/NKCC1により調節されるが、KCC2機能が弱まると Cl- 濃度が上昇し、GABAによる過分極が弱まる。そこで、細胞内 Cl- 濃度の慢性疼痛による変化があるか否か明らかにする。そのために、細胞内 Cl- 濃度をインタクトに保った状態でGABA応答を記録できるグラミシジン穿孔パッチ法を用いた検討を行う。グラミシジン穿孔パッチ法は、標本によっては困難になることがあるので、その場合は、従来型のホールセル法を用いて、細胞体と樹状突起におけるGABA応答の違いからKCC2の機能や細胞内にCl- を汲み込む NKCC1 の機能に変化がないか検討する。なお、最近の予備実験で、CFAによる慢性疼痛モデルマウスでは、興奮性細胞(錐体細胞)の細胞内Cl- 濃度が上昇していることを示唆する実験の結果を得ているので、さらなる検討を加えるとともに、座骨神経障害モデルにおいても細胞内Cl- 濃度の変化について検討する。 本年度のカルシウムイメージングを用いた検討から、第4層を刺激することにより生じる第2/3層抑制性ニューロンの興奮は、慢性痛モデルで増強していることが示唆されている。しかし、このメカニズムは全く不明なままである。そこで、抑制性ニューロンの興奮性入力について、mEPSC, evoked EPSC および paired pulse ratio、さらに readily-releasable pool サイズについて慢性疼痛による変化があるか否か明らかにし、変化があればそのメカニズムについて検討を行う。なおメカニズムの解明にあたっては、神経終末部が付着した状態で単離した神経細胞を用い、GABAおよびグルタミン酸の放出の性質に関する単一神経終末部レベルの解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はシナプス外GABA受容体が関与する持続性(トニック)電流についても解析を行う予定であったが、フィードフォワード抑制の解析を優先したため、トニック電流の解析が不十分であった。これまでの実験でCFAモデルの興奮性細胞においてトニック電流が増強されることが示唆されているので、まず、それが確実か否か明らかにしする。その後、持続性(トニック)電流について、GABAトランスポーター阻害剤(NO-711)などの効果とともに、GABA受容体に関する薬理学的検討を行う。具体的には、GABA(A)受容体インバースアンタゴニストであるL655708、ベンゾジアゼピン類(flumazenilおよび zolpidem)、エタノール、ニューロステロイド(THDOC等)、の効果から持続性電流に関与する受容体およびその発現について検討を行う。なお、パッチクランプを行う際の、細胞内液には biocytin を加えておき、実験後に染色して形態を比較するとともに、必要であればGABA(A)受容体に関する免疫染色を行い受容体のサブタイプの検討を行う。
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