研究課題/領域番号 |
24590746
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
山田 芳司 三重大学, 生命科学研究支援センター, 教授 (90333286)
|
研究分担者 |
西田 有 三重大学, 生命科学研究支援センター, 助教 (50287463)
|
キーワード | 慢性腎臓病 / 糖尿病性腎症 / 高血圧性腎硬化症 / ゲノム全領域関連解析 / 遺伝子多型 / 2型糖尿病 / 心筋梗塞 |
研究概要 |
糖尿病性腎症の発症に関連する遺伝子として特定したalpha-kinase 1(ALPK1)遺伝子が糖尿病の発症そのものに関連するか否かを明らかにするために、ALPK1遺伝子の4種類の非同義置換(アミノ酸の置換を伴う)多型と2型糖尿病との関連を一般住民5959例(2型糖尿病495例、コントロール5464例)において解析した。その結果、ALPK1遺伝子のrs2074388(G→A, Gly565Asp)およびrs2074379(G→A, Met732Ile)が2型糖尿病の発症と有意に関連することが明らかになった。 慢性腎臓病(糖尿病性腎症)と2型糖尿病は心筋梗塞の重要な危険因子であるため、ALPK1遺伝子多型が心筋梗塞の発症に関連するかどうかについて一般住民5771例(心筋梗塞 41例、コントロール 5730例)において検討した。その結果、ALPK1遺伝子のrs2074380(G→A, Ser870Gly)およびrs2074381(A→G, Asn916Asp)が心筋梗塞の発症に有意に関連することが明らかになった。 次に、慢性腎臓病の病態におけるALPK1遺伝子の役割を明らかにするために、ALPK1の機能解析を行った。ヒト腎臓の免疫組織染色では、正常な腎臓および糖尿病性糸球体硬化症の尿細管にALPK1の発現が認められた。さらに、糖尿病性糸球体硬化症の萎縮した尿細管と尿円柱ではALPK1の発現が増強していた。糖尿病性糸球体硬化症でALPK1の発現が亢進したため、ヒト腎臓由来の培養HEK293細胞にALPK1を過剰発現させて、腎機能に関連する84種類の遺伝子の発現を検討した。ALPK1の過剰発現により、solute carrier family 22, member 1(SLC22A1)および cystatin C(CST3)の発現が著名に増加することが明らかになった。ALPK1は慢性炎症を増強させる作用があり、CST3は血管の炎症を惹起することが報告されている。以上の結果から、ALPK1は腎臓や血管の慢性炎症を増強させることにより慢性腎臓病の発症に関与することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画では、慢性腎臓病の病態におけるALPK1遺伝子の役割を明らかにするために、ALPK1遺伝子の機能解析を行うことが中心であった。実際にALPK1遺伝子の機能解析を行い、ALPK1が腎臓や血管の慢性炎症を増強させることにより慢性腎臓病の発症に関与することを明らかにした。さらに、糖尿病性腎症の発症に関連する遺伝子として特定したALPK1遺伝子について、2型糖尿病や心筋梗塞の発症にも関連することを明らかにした。以上の研究成果から、研究は順調に進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、慢性腎臓病の発症に関連する新規の遺伝子多型を同定し、遺伝因子と環境要因を包括した慢性腎臓病の個別化予防システムを開発する。即ち、慢性腎臓病の発症に関連する遺伝子多型に加え、危険因子(高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満・メタボリックシンドローム)および年齢、性別、環境因子(喫煙、飲酒、運動、食習慣、ストレス)を包括した個別化予防システムを開発する。本システムでは、慢性腎臓病を発症するリスク、ならびに発症リスクにおける各遺伝子多型およびその他の因子の寄与率を算出する。本システムにより、慢性腎臓病に関する個人の発症リスクを予測し、遺伝因子以外の治療・改善可能な因子に関して「生活習慣の改善あるいは治療によりどの危険因子を改善・除去すればどれだけ発症リスクが減少するか」についても予測する。健診センターや病院、クリニックにおいて、希望者に対し発症リスクを予測し、結果について医師あるいは遺伝カウンセラーによるカウンセリングを行う。リスクが高い場合には生活習慣の改善や、危険因子の早期治療を行うことにより慢性腎臓病の予防を積極的に推進する。特に慢性腎臓病の家族歴がある人々への適用が有効である。本システムを用いて慢性腎臓病の個別化予防を行ない、とりわけ心筋梗塞・脳梗塞・末期腎不全などの重篤な疾患を予防することにより、中高年者の健康維持・健康長寿・生活の質の向上・ねたきり防止への貢献が期待できる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
消耗品の購入において、予定より低価格で購入できたため、残高を翌年に繰り越した。 慢性腎臓病感の発症に関連する新規のSNPsを同定するためのSNP解析費用(1,150千円)および遺伝子の機能解析のための分子生物試薬購入費用(50千円)として支出する。
|