研究課題
かつて漁網の防汚剤として使用され、現在においても海洋汚染物質であるトリブチルスズの二世代曝露による仔(F1ラット)における神経毒性を検証するために、記憶学習能力に秀で、鋭敏に神経毒性を検出できるTokai High Avoider (THA) ラットを用いて研究を続けてきた。過去の研究で、トリブチルスズの経胎盤・経母乳曝露、離乳後の発達期曝露それぞれによって、F1ラットについて発達への影響、記憶学習能力への影響、自発行動への影響が示されたため、今回は、連続曝露(妊娠ラットへの餌中投与及び離乳後の餌中投与)を行い、6週令時から10日間、一日一回、シドマン型電撃回避試験を行い前半30分、後半30分に分けて評価した。妊娠ラット及びF1ラットに与える餌は塩化トリブチルスズを0または50 ppm含む餌であった。F1ラットの体重は4週から7週、いずれの時点でも、F1の雌雄ともに、トリブチルスズ50ppm曝露群で対照群に比べ有意に低い結果となった。シドマン型電撃回避試験については、オスについては6回目後半から電撃回避率がトリブチルスズ群で対照群より有意に低く、メスについては殆どすべての観察時点で、電撃回避率がトリブチルスズ群で対照群より有意に低かった。以上より、胎児期、授乳期、離乳後の発達期に、トリブチルスズが50ppm含有されている餌によって曝露を受けると、顕著な発達毒性及び記憶学習能力の低下が起こることが示され、その影響は雌により顕著に現れることも示唆された。この影響は、先行研究の経胎盤・経母乳曝露のみ、または発達期のみの曝露よりも強いことが示唆され、連続曝露の影響の大きさが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、トリブチルスズの二世代曝露による神経毒性を、特に先行研究においては、実験のバラツキが大きく、検出が難しかった記憶学習能力に関して、一様に高い学習能力を示すTokai High Avoiderラットを用いてシドマン型電撃回避試験により検証することであった。今までの先行研究で、経胎盤・経母乳曝露、離乳後の発達期における曝露それぞれにおいて、その影響の強さに差はあるものの、トリブチルスズの学習記憶能力に対する影響及び行動抑制が示されてきた。本年度の研究においては、より現実の曝露に近い、連続曝露の検討を行い、餌中のトリブチルスズの濃度が50ppmのレベルで起き、その程度も、予想通りではあるが、経胎盤・経母乳曝露、または発達期曝露単独よりも強いことも示唆されている。安全域を考えると、汚染状況とも比較可能なレベルでの、二世代曝露による記憶学習能力への影響を、曝露時期の違いそれぞれにおいて明らかにできており、順調に進展と考える。
現時点で、トリブチルスズの二世代曝露による神経毒性について、経胎盤・経母乳曝露、離乳後の発達期曝露、経胎盤・経母乳曝露及び発達期曝露(連続曝露)いずれにおいても、程度の差はあるが、トリブチルスズ曝露群の成長抑制、記憶学習能力の低下、行動抑制が明らかになった。現時点では餌中50ppmの濃度がLOAEL(Lowest observed adverse effect level, 最小毒性量)である。方向性の一つはNOAEL(No observed adverse effect level, 最大無毒性量)を明らかにすることであるが、曝露濃度が低くなれば実験的に明確な結果が出なくなるのは当然であり、その点も考慮に入れて研究を勧める。もうひとつの方向は、今回起きた成長抑制、記憶学習能力の低下、行動抑制のメカニズムを探ることで、脂質代謝、脳内遺伝子発現の検討、神経伝達物質の測定などを通し検討することである。
今年度の実験が動物の繁殖の都合上、後半にずれこんだために、動物実験処理後の神経伝達物質の測定や採取した血液の生化学的所見の確認は、余裕を持たせ、次年度に行うのが適切との結論に至ったため高速液体クロマトグラフィーによる神経伝達物質の試薬購入、血液生化学的所見(脂質など)の測定に係わる費用に当てる
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Biomedical Research on Trace Elements
巻: 24 ページ: 153-162