研究概要 |
本研究の目的は紫外線障害に対する分子状水素を用いた新規予防法を提案することにある。昨年度は線虫寿命を指標にして、分子状水素が生体を紫外線障害から保護することを生存率、線虫卵を用いた孵化率、生殖細胞のアポトーシス細胞数等を検討し示した。さらにRNAi発現ベクターを投与して分子状水素の作用点の候補遺伝子をノックダウンすることで保護作用に関与する分子機構を明らかにする試みを行ったが、今年度は昨年度の検討点について再現性の確認を行った。この内age-1, daf-16, skn-1, wdr-23, rad-51, xpa-1, xpg-1, cep-1, hif-1の9種類の遺伝子の検討ではage-1, wdr-23, hif-1, rad-51のノックダウンにより水素の保護作用が減弱し生存期間に有意差が観察されなくなったことより、これらの分子の関連経路が分子状水素の紫外線障害保護効果に重要であることが示唆された。こうした結果は第36回日本分子生物学会で報告した。続いて分子状水素の投与の有無による遺伝子発現の変化を、DNAマイクロアレイを用いてマウス肝臓で比較した。Gene enrichment解析を行ったところ、一連のribosomal RNA発現が分子状水素により影響を受けていることが見いだされた。またreal time PCRにより実際にribosomal RNAの発現量が変動することを確認した。さらにGeneXplainによるネットワーク解析を行ったところ、mTORが上流に位置することが示唆された。線虫の検討で関連が指摘されたage-1は哺乳動物ではPI3Kに相当しmTORの上流に位置することからPI3K-Akt-mTOR経路が分子状水素の紫外線保護効果に関与している可能性が示唆された。現在その詳細な検討を進めている。
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