研究概要 |
本研究は発がん性/変異原性を有する多環芳香族炭化水素(PAH)が大気中における変質にアジアンダスト(黄砂)の触媒作用を明らかにすることを目的としている。今年は中国のタクラマカン砂漠,トングリ砂漠,ホルチン砂地及び黄土高原の4地点でバックグラウンド黄砂を採集して物性を評価し,PAHの曝露実験を行った。 黄土高原で採取された黄砂の比表面積が最も広く,全細孔容積が最も大きかった。4地点の黄砂の水抽出液はいずれもアルカリ性であり,タクラマカン砂漠とトングリ砂漠の黄砂の水抽出液中,塩化物イオンとナトリウムイオンの濃度が特徴的に高かった。一方,4地点の黄砂のジクロロメタン抽出液に,ナフタレン及びその酸化誘導体(水酸化体,ニトロ化体,キノン体)がいずれも検出されなかった。 反応性ガス(二酸化硫黄/二酸化窒素/オゾン)が非共存下,明(蛍光灯)と暗(遮光)曝露条件におけるナフタレンの黄砂への吸着量は,黄砂の比表面積の広さまたは全細孔容積の大きさに依存的に多くなり,物理吸着がメインであった。しかし,黄砂の曝露後のジクロロメタン抽出液からは1,2-naphthaquinoneと未知ピークが検出されたため,黄砂表面の触媒作用(化学吸着)は実証された。 反応性ガス共存下,明暗曝露条件とも,反応性ガスの非共存下と同様に,ナフタレンの黄砂への吸着量が比表面積または全細孔容積に比例して増減したが,単位重量当たりの吸着量は反応性ガスの非共存下より少なかった。対して,1,2-naphthaquinoneと前述の未知ピークだけではなく,1-nitronaphtharene, 1,3-dinitronaphtharene, 1,4-naphthaquinoneのピークと極性画分に新たな未知ピークが検出された。
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