研究課題/領域番号 |
24590777
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
池野 多美子 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任講師 (80569715)
|
研究分担者 |
室橋 春光 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (00182147)
佐々木 成子 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30448831)
白石 秀明 北海道大学, 大学病院, 助教 (80374411)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 疫学 / ADHD / 発達障害 / 学童期 / 環境リスク |
研究概要 |
環境と子どもの健康影響を解明する出生コーホート(登録数2万人)に参加している8歳児を対象に、注意欠如多動性障害(ADHD)発症の環境リスク要因を明らかにする。環境要因の1つである喫煙は、胎児期曝露を妊娠初期調査票と母体血漿コチニン値で、学童期の喫煙曝露を7歳時の両親喫煙状況と児尿中コチニン値により評価する。ADHDは8歳時調査票でConners3日本語版とADHD-RSを、8歳時追加調査票では自閉症スぺクトラム(ASQ)を用いた。本年度は次の事が明らかになった。 1)8歳時調査票は1,192名から、8歳時追加調査票は864名から回収し(回収率はそれぞれ55%、85%)、データクリーニングした619名について解析を行った。ADHD診断を受けた児は12名(1.9%)、発達障害診断を受けた児は14名(2.3%)であった。妊娠中の母体血漿コチニン値は8.60ng/ml(N=529)であった。Conners3日本語版の不注意T得点52.6±11.0、多動衝動T得点は48.3±8.7、Conners総合指標T得点は51.1±10.9であった。これら3つの得点と喫煙状況や母体血漿コチニン、ライフイベント、養育環境得点などの関連を検討した結果、母体血漿コチニン値が高いほど、不注意得点(P<0.05 )、多動衝動得点(p<0.01)、Conners総合指標得点(p<0.05)が高かったが、ライフイベント数が多いほど、また養育環境得点が低いほど、3つの指標得点全てにおいて高得点となった(すべてp<0.001)。8歳追加調査票で自閉症スクリーニング(ASQ)と養育者のサポート状況、家族機能評価(家族アプガー)、母親の精神健康(SDS)を864名から回収した。 2)ADHD疑い群8名、対照群28名に対し、児のWISC-IV検査、問題行動(CBCL)、母親のストレス状況を対面調査で行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
8歳時調査票は平成24年度1,192名回収(回収率平均55%)、追加調査票864名回収(回収率平均85%)しており、発送と回収状況は順調である。平成25年度には新たに8歳調査票を1,769名へ発送し973名回収、8歳追加調査票も827名を回収できる見込みである。胎児期喫煙曝露の評価は、すでに母体血漿中コチニン測定が16,980名分終了し、7歳時尿中コチニン測定は平成24年度に600件測定を完了した。調査票から得られる環境要因と喫煙曝露データを連結することにより、十分なサンプル数でADHDへの環境リスク評価が可能となる。特に追加調査票の回収率が高いことで、ADHDと自閉症スペクトルに含まれる発達障害との鑑別、発達障害の種類別の環境リスク要因の検討を行うことができると予想している。コーホート内症例対照研究の対面調査は、24年度36名の調査を担当した調査員3名を平成25年度も確保しており、小学校の夏、冬、春の長期休暇に30~50名を調査できる目処が立ち、平成25年度120名の実施を予定している。遺伝子解析については、小規模コーホートの母児267組について胎児期化学物質曝露が児のメチル化に及ぼす影響を解析し、水銀曝露濃度が高いほど臍帯血のLINE-1メチル化率が上昇した(p=0.02)ことを報告しており、ADHD発症リスクについても、コーホート内症例対照研究で解析する対象者抽出ができ次第遺伝子解析を進める体制が整っている。
|
今後の研究の推進方策 |
1)全員を対象とした調査票ベースの調査 ①平成25年度には8歳時調査票を1,769名へ、8歳時追加調査票を973名に発送する予定である。回収見込み予想は、8歳調査票973名、8歳時追加調査票827名である。②7歳時尿中コチニン測定は平成24年度採取の未処理分250件と25年度に採取する尿のコチニン値を8歳データセットに入力する。 2)コーホート内症例対照研究 ①Conners3日本語版の総合指標得点上位5%をADHD疑い群として、マッチングした対照群と抽出し対面調査を行う。平成25年度は、小学校夏休み40~50名、冬休み30名、春休み30~40名を実施し、WISC-IVと養育者への調査票(CBCL、養育者ストレスなど)の情報を、平成24年度と併せ150名以上(症例・対照合計)を目標にする。②対面調査対象者から母体血と臍帯血のペアを抽出し、ADHD関連単一塩基多型(DRD4,DRD5を中心に)分析、DNAメチル化以上の分析をパイロシーケンサーで測定し解析する。 [連携研究者] 岸玲子(北海道大学・環境健康科学研究教育センター・特任教授)、荒木敦子(北海道大学・環境健康科学研究教育センター・特任講師)、安住薫(北海道大学・環境健康科学研究教育センター・客員研究員)
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度研究費に572,236円の未使用額が生じた理由は次の通りである。①調査票で使用しているConners3日本語版の利用料金を1000件分15万円と試算していたが、8歳時調査票のデータクリーニング完了件数619件でこの件数分の利用料金を支払った(約57,150円の繰越)。②対面調査の実施が予定より約30名少なかったため、対面調査での謝礼と調査員給料で約24万円の繰越となった。③受動喫煙曝露を評価する7歳児尿コチニン測定に25万円と試算していたが、検査会社の都合(試薬在庫不足)により検査を翌年度に回すことになった(約25万円の繰り越し)。 平成25年度計画は次の通りである。1)全員を対象とした調査票ベースの調査では ①8歳時調査票で使用するConners3日本語版の版権元である金子書房へ、利用許諾契約(1000名分まで150円/名、1000名以上より50円/名)に基づき、利用料を支払う(平成24年度619名分のみ支払い済み、平成25年度支払いは、150円/名が381名分、50円/名が1165名分となる予算で合計115,400円)。②8歳時調査への協力に対する謝礼として500円の図書カードを送付する(973名分として486,500円)。③8歳時調査票及び追加調査票の印刷および紙代、発送・督促の郵送料。④調査票データ入力・クリーニングのために雇用する短期支援員への給与にあてる。 2)コーホート内症例対照研究では①対面調査調査員(児のWISC-IV)を雇用する。②対面調査協力者への謝礼として、1,000円の図書カードを渡す(25年度120名とすると120,000円)。③遺伝子解析では連携協力者が主任となっている研究と共同し、当研究費からは実験用機材や備品購入として一部分担する予定である。 3)国内外学会発表および論文投稿で研究成果を発表する目的で研究費の一部を使用する。
|