研究課題/領域番号 |
24590798
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 基 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (60444874)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / ベトナム |
研究概要 |
小児のインフルエンザ桿菌b 型(Hib)感染症に対する、ポリサッカライド結合ワクチン(Hib-CV)の有効性は欧米先進国で確立された。しかし、東南アジア低中所得国におけるHib-CV の効果は十分に明らかでない。いっぽう近年、Hib-CV 導入後に、ワクチンが無効なインフルエンザ桿菌による感染症が増加する現象(血清型交代)が報告されている。本研究では、ベトナム中部ニャチャン市でケース・コントロール研究を行い、ベトナム人小児におけるHib-CV の効果を解明する。また実際の接触行動パターンに基づく最新のシミュレーションモデルを使って、今後のベトナムにおけるHib 感染症の罹患率の推移を推定し、血清型交代がもたらすインパクトを検証する計画である。 平成24年度は、現在進行中の疫学調査データを用いて解析を行った。ベトナムでは2010年6月に、DTP-HepB-Hib combination vaccineが国家予防接種計画に導入された。われわれの研究グループは、2007年よりベトナム中部ニャチャン市で小児呼吸器感染症サーベイランスを実施している。このサーベイランスデータを用いて、2010年6月のHib-CV導入前後で、小児呼肺炎の発生率の変化を検討した。解析には時系列分析モデルを用い、短期的な呼吸器ウイルスの季節変動、および長期的な衛生状態の改善による肺炎発生率の減少傾向を考慮した。その結果、Hib-CV導入により、小児肺炎の発生率が14.9%減少していることが明らかとなった。これは東南アジアにおけるHib-CVの小児肺炎に対する効果を示した最初の研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はベトナム人小児におけるHibワクチンの効果を評価することを目的としている。研究の方法としては、ケースコントロール・スタディおよび数理モデルを用いることを計画しているが、初年度においてはフィールドの人員調整に手間取り、研究計画通りのデータを収集することができなかった。とくにケースコントロール・スタディのために必要な適切なコントロール群のデータを集めることが困難であった。そのため、まずは現在進行中のサーベイランスデータを用いた時系列解析により、ワクチンの効果を評価した。研究の成果としては満足ゆくものであるが、当初の計画通りに進行していないため「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は3つのステップから構成される。①カンホア省総合病院小児科において、5歳未満の小児肺炎症例と非呼吸器感染症症例を登録し、Hib-CV のワクチン効果を推定する、②同院のあるニャチャン市のコミュニティーから5歳未満小児をもつ200家庭約1,000人を無作為に抽出し、繰り返しの横断調査によって個々のワクチン接種歴と家庭内における接触行動パターンを調べる、③①と②のデータを用いて感染症数理モデルを使ったシミュレーションを行い、今後数十年のHib 疾患の罹患率の推移を推定する。また、血清型交代により罹患率の再上昇が発生する可能性を検証する。 平成25年度は、時系列分析の成果を踏まえ、改めて個別小児を対象とした観察研究によるワクチン効率の推定を行う(①)。研究デザインを当初計画していたケースコントロール研究からコホート研究に変更する。理由は、ベトナムでは2010年にHibワクチンが国家ワクチン接種事業に組み込まれているが、その接種率が予想以上に高く、前向きのケースコントロール研究でワクチン効率を評価することが困難だからである。そこで、われわれの研究グループが2009年より行っている、2000人を対象とした出生コホート研究を活用する計画である。これにより、2010年のHibワクチン導入前後でHib疾患の罹患率を比較することが可能となる。また、②については、予定通り6月に横断調査を行う予定で準備を行っている。これらのデータが揃い次第、③の血清型交代の可能性について検証する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に当初計画していたケースコントロール研究を開始することが困難であったため、使用する予定であった渡航費、人件費、試薬購入費を平成25年度に繰り越した。 平成25年度は、ベトナム・ニャチャン市へ3回渡航する予定であり、その渡航費と滞在費を計上している。また、フィールドワークを行う地元保健師への謝礼金を計上している。収集した臨床検体の微生物学的な解析のために必要な試薬およびPCRプライマーを計上した。
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