研究課題
小児のインフルエンザ桿菌b型(Hib)感染症に対する、ポリサッカライド結合ワクチン(Hib-CV)の有効性は欧米先進国で確立された。しかし、アジア人においてはインフルエンザ桿菌感染症に占めるHibの割合が低いことが知られており、特に東南アジア低中所得国におけるHib-CVの効果は十分に明らかでない。いっぽう近年、Hib-CV導入後に、ワクチンが無効なインフルエンザ桿菌による感染症が増加する現象(血清型交代)が報告されている。本研究では、ベトナム中部ニャチャン市において実施されている疫学研究、ベトナム人小児におけるHib-CVの効果を解明する。また実際の接触行動パターンに基づくシミュレーションモデルを用いて、今後のベトナムにおけるHib感染症の罹患率の推移を推定し、血清型交代がもたらすインパクトを検証する計画である。平成25年度は、ベトナムで2010年6月に国家予防接種計画に導入されたDTP-HepB-Hib combination vaccineの効果を推定するために、2つの研究を行った。ひとつは、サーベイランスデータを活用したワクチン効果推定である。呼吸器感染症で病院に入院した5歳未満小児のレントゲン写真約3000枚を、WHOの基準に基づいて再読影を行った。このデータを用いて、Hib-CV導入前における小児肺炎の発生率の推定(J Pediatr. 2013)、インフルエンザパンデミックが小児肺炎に及ぼした影響について評価し(Influenza Other Respiratory Viruses. 2014)、導入後の発生率の減少率については、数理モデルを用いて算出した。もうひとつは、2009年より開始した出生コホート研究のデータを使って、ワクチンの効果を推定することを試みた。
3: やや遅れている
本研究の目的のひとつは、ベトナム人小児におけるHib-CVの効果を評価することである。これについては、これまでに、サーベイランスデータおよび出生コホートデータを用いた検討を行い、一部の成果はすでに学術論文として公表し、もうひとつの論文についても、現在投稿準備中であり、達成度としては満足行くものである。一方、今後予想される血清型交代のリスクについて推定する作業については、初年度の人員調整の手間取りから、コミュニティーレベルのデータ収集作業が遅れており、当初の計画通りに進行していないため「やや遅れている」と評価した。
これまでの研究により明らかとなった、ベトナム人小児におけるHib-CVのワクチン効果について論文にまとめ、学術雑誌に投稿する予定である。また、1000人を対象とした横断調査を行い、接触行動パターンを収集・集計する。このデータを解析し、血清型交代の可能性について検証する予定である。
当初計画していた住民横断調査のためのフィールド人員の確保が遅れたため、使用する予定であった物品費、人件費を平成26年度に繰り越した。平成26年度は、ベトナムニャチャン市へ3回渡航する予定であり、その渡航費と滞在費を計上している。また、フィールドワークを行う保健師への謝金、データ入力を行う地元衛生局スタッフの人件費を計上している。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Influenza and Other Respir Viruses
巻: 12244 ページ: 1-8
10.1111/irv.12244.
Journal of Pediatrics
巻: 163 ページ: S38-43
10.1016/j.jpeds.2013.03.029.