研究課題/領域番号 |
24590801
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
加茂 憲一 札幌医科大学, 医療人育成センター, 准教授 (10404740)
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研究分担者 |
佐藤 健一 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 准教授 (30284219)
冨田 哲治 県立広島大学, 経営情報学部, 准教授 (60346533)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌疫学 |
研究概要 |
初年度の目標は、癌リスクを見やすく表現する視覚化モデルの構築であった。この点に関して、癌の時系列解析で用いられてきたAPC(age-period-cohort)モデル、地理的加重一般化線形モデル、パラメトリックモデルの3種類に着目し、実データを用いた解析を行った。全てのモデルに関して、人口をオフセットとするポアソン回帰モデルをベースとし、日本における癌死亡および罹患に関して、年齢と時代からなる座標上にリスクの高低をリスク曲面として構築した。実際には2次元で表現する必要があるため、リスクの高低を色の濃淡と等高線で表現した。 まず、APCモデルについては、識別問題が存在するために制約を設けた上で年齢・時代・出生コホート効果を推定し、リスク曲面を構築した。地理的加重一般化線形モデルについては、今回の作業が地図を表現する手法に類似していることから、その適用可能性を議論することとした。最後にパラメトリックモデルについては、年齢と時代の多項式および交互作用項で説明変数を構築した。リスク曲面の推定結果に関する妥当性については、記述疫学的な側面から指摘されている特性が表現されているかにより検討した。 実際に、日本における癌死亡データを用いた解析(リスク曲面の構築)を行った。年齢と時代が変数であるため、残りの出生コホート効果の視覚化に着目して妥当性の検証を行った。出生コホート効果の強い男性の肝臓癌の解析によると、昭和一桁生まれ世代の特異な高リスク効果は全てのモデルにおいて視覚化された。一方で、各モデルにおける様々な特徴も観察され、今後の2次的な解析における手法を決定する材料となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画における初年度の予定は大きく分けて、癌リスクの視覚化モデルに関する先行研究調査・実際のモデル構築・実解析による妥当性の検討の3つであった。まずは、先行研究調査により、APCモデル・地理的加重一般化線形モデル・パラメトリックモデルの3種類に候補モデルを絞った。これらを用いるあるいは修正を加えて、日本の癌死亡データ(特に出生コホート効果の強い男性の肝臓癌)に関する解析を行い、その結果について妥当性の検討を行った。 各モデルに関して、肝臓癌の出生コホート効果を視覚化するモデルは構築されたため、「癌リスクの視覚化」に関しては達成されている。今後は、他の部位に関する特徴を鑑みながらモデルの洗練を行ってゆく予定である。従って、モデル構築に関しては、基礎モデルが定まった段階にあり、今後の修正も必要となってくる。実解析においても、試験的に肝臓癌の死亡に関する解析が終了した。今後は他の部位および、対象を罹患に広げた解析を行ってゆく予定である。 当初の予定からの達成度であるが、初年度の予定に限定すれば、先行研究調査に関しては80%、モデル構築に関してはほぼ100%、実解析に関しては80%程度であり順調に進んでいるといえる。先行調査研究および実解析に関しては僅かながら当初予定に届かなかったが、モデル構築に関しては予定以上の進展が見られたため3年トータルで見ると、全体的な研究進捗はおおよそ3分の1であり、今後も無理なく研究を進められる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究により、癌リスクを視覚化する統計モデルが構築可能かつ有効であること、また様々な部位に関する結果を基に改良が可能であることが分かった。今後の2次的な活用および発展を考えると、今後は主にパラメトリックモデルに着目し、モデルの洗練および実解析におけるニーズに沿った様々な付加的理論を構築することに重きを置くこととする。 2年目の年度以降は、制約の強いパラメトリックモデルを主に取り扱い、その利点を活かして、リスク曲面の信頼区間の構築、様々な統計的仮説検定法の導入による意思決定理論の構築、更には実務的なニーズの高い将来予測モデルの構築などが考えられる。まず、リスク曲面の信頼区間については、未知パラメータの推定量に関する漸近的な性質を明らかにすることにより構築されることが期待される。次に、仮説検定による意思決定についても推定量の漸近的な性質を調べ、適切な検定統計量を構築することにより達成されることが期待される。このことにより、例えばリスク曲面が一様であるか、あるいは特定の特徴に関してその存在性などを検証する際の意思決定が可能となる。最後に、将来予測に関しては、リスク曲面の外挿による方法を構築する。癌に関する特徴を視覚化モデルにより見出した後に、その特性を組み込んだモデルを再構築し、リスク曲面としての予測を行う。前述の信頼区間に関する理論を融合させることにより、区間による予測も期待される。 一方で、ベースとなるモデルに関しても、癌の時系列特性を活かした形への改良、例えば同一コホート内に相関を導入したモデルを構築するなど必要に応じて立ち返り、モデルの洗練を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
主任研究者は現在札幌在住であり、2人の分担研究者は広島在住である。今後も定期的にミーティングを開催し、互いの研究進捗報告および方向性を決定することによる研究の効率化をはかる必要があり、そのための旅費を計上する。主任研究者・分担研究者共に、得られた研究成果は学会やシンポジウムにおいて発表予定であり、そのための旅費および参加費も計上する。昨年度は、地理解析の専門家(琉球大学・木島真志准教授)を訪問し、地理的加重一般化線形モデルの癌リスク解析への適用可能性について、ミニシンポジウムを開催して議論を行った。このような対外交流は研究の活性化に繋がることが期待されるため、本年度も必要に応じて分担研究者以外にも個別に訪問し、本研究に必要な助言を頂く場を設けることを考えている。モデルに関してはある程度固定されてきたため、実学的な側面が主になると考えられ、現在も癌疫学に関する研究交流を進めている、大阪大学医学部、大阪府立成人病センター、国立がん研究センターへの訪問や進捗報告を考えている。 一方で、実データを用いた解析に対するウエイトは増加してくることが見込まれる。解析の前段階におけるデータの整形や基本的なプログラミングに関するマンパワーの軽減のために、主任研究者所属の札幌医科大学において研究をサポートする人員を継続して1名配置する予定である。 得られた成果に関しては順次学術論文として公表してゆく予定である。そのための英文添削費用および、論文投稿料、別刷りにかかる費用といった学術論文作成の過程において必要となる費用も計上する。また、研究において必要となる文献を購入する消耗品費も計上する。 尚、初年度に関しては、予定していたミーティングのうち1回を進捗状況に鑑み見送ったため残額が発生した。
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