<最終年度に実施した研究>入院中の認知症の転倒に関する調査で把握された転倒要因の回避対策を試み,日常生活の指導・環境改善が認知症の転倒予防に有効かを検討した.対象は2施設へ入院中の認知症67名である.改善対策はA病院38名(平均年齢85.1±5.1)を介入群とし、4月から3ヶ月間介入を実施し,同時期にB病院29名(平均年齢83.0±6.1)を対照群と比較する対照試験を実施した.介入群には作業療法士が個別に調査し対応可能な改善対策を実施した.介入の転倒予防効果は,主に転倒の統計的有意な減少を効果ありとした(P<0.05).介入は、対象に応じて運動プラグラム、環境調整として照明設置、転倒予防用の靴と靴下の装着、転倒への注意喚起として転倒予防教室等を行った.介入開始時、過去12週間の転倒者が介入群18/38名(47. 3%)・対照群4/29名(13.8%)と有意に介入群が多かった.介入期間中12週間の転倒者が介入群6/38(15.8%)と,対照群4/14人(13.8%)と有意な差はなくなった.介入期間の前後比較から対照群の変化はなかった.介入群では有意に介入中の転倒の減少がみられた.以上の事から,認知症を対象にした作業療法士による運動プラグラム、環境調整、転倒への注意喚起(転倒予防教室等)は転倒予防に有用な手段であることが示唆された. <研究期間全体を通じて実施した研究の成果>入院・施設通所中の認知症患者を対象に横断調査を実施した.その結果、過去の転倒と関係があった行動特性は「同じことを何度も聞く」「よく物をなくしたり,置き場所を間違えたり,隠したりする」「根拠なしに人にいいがかりをつける」「場違いあるいは季節に合わない不適切な服装をする」であり、ADLは「食事」「車椅子からベッドへの移動」「入浴」であった.さらに、認知症患者を対象に3ヶ月の追跡調査を実施した結果、ADLの「着替え」の自立低下が転倒予測に有効であることがわかった.
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