研究課題/領域番号 |
24590806
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山梨県立大学 |
研究代表者 |
小田切 陽一 山梨県立大学, 看護学研究科, 教授 (20152506)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 自殺 / 損失寿命 / 早死 |
研究概要 |
わが国の自殺対策に資する情報を得ることを目的として、自殺による社会的損失を損失寿命(Life Lost)として評価した。全国データとしてバブル経済崩壊後の1993年から直近の2010年の間の人口動態統計より、自殺を含む主要死因別死亡(悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、不慮の事故、自殺)の性5歳年齢階級別死亡数をもとに損失生存可能年数(Years of Potential Life Lost:YPLL)を生存目標年齢を65歳に設定して、人口10万人あたりの年齢調整率として算出した。年次推移について比較・観察した結果、自殺のYPLL率は、男性では1993~97年の間は約400(年/人口10万)で推移したが、1998年に599に急上昇し、2001~02年は僅かに低下したが、以降は漸増して2008年には635に達した。女性の場合も1993~97年の約150-170(年/人口10万)から1998年に217に上昇した後、以降も漸増し、2008年に256に達した。一方、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、不慮の事故(阪神大震災の影響を除く)のYPLL率は観察期間中に一貫して低減していたことから、わが国の自殺における早死傾向の強まりが特徴として明らかにされた。 自殺のYPLL率の年次推移については、都道府県別の算出を終了し、全国平均の年次推移との比較において、都道府県の特徴が認められることが示唆されたことから、次年度以降にクラスター分析による類型化を実施することとしている。 一方、自殺の損失寿命の推移との関連要因を探る目的から、本年度は人口動態統計等の公的統計の収集作業を継続中である。とくに雇用・経済要因に着目して、自殺との関連を予備的に調査する目的から、労働統計の完全失業率(年平均)の年齢・時代・世代影響を分析して、自殺率の年齢、時代、世代影響との関連について分析を進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自殺による損失寿命を人口動態統計を基に算出する計画については当初の計画どおり、全国および各都道府県別にYPLLの算出を終了し、その年次推移についての結果を得ており順調に進捗している。また、悪性新生物、心疾患等、他の主要死因による損失寿命の年次推移を算出して、自殺の損失寿命との比較を行い、わが国の自殺の損失寿命の年次推移の特徴を記述できた点は、計画以上に進捗したと自己評価している。とくに悪性新生物の部位別死亡の損失寿命を算出したことで、自殺を含め早死改善の観点からも自殺対策が重要であることが焦点化された。一方、損失寿命の推移(早死傾向)の背景要因を探る目的から、自殺関連要因に係る公的統計資料の収集を進めてきているが、データが年度間で不統一であり、連続性のないものが含まれることなど、計画時には予期できなかった課題も明らかになり、全体として要因情報の収集の点では進捗に幾分の遅れが出ているが、人口、世帯、医療・福祉、社会・経済要因に大別しての主要データの収集を進めてきている。中でも自殺との関連が想定される雇用の問題に着目して雇用統計から完全失業率をとりあげ、自殺率との関連で時代的な相関だけでなく、ベイズ型Age-period-cohort分析を使用して年齢、時代、世代効果に分離した比較に着手できた成果は計画を上回る成果と捉えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初、研究計画調書に記載した計画どおり、平成25年度以降は本年度の分析に直近の自殺データ(全国および都道府県)を追加した上で、都道府県別の年齢調整損失寿命の年次推移のパターンをクラスター分析を用いて類型化してその特徴を明らかにする。この成果については2013年9月にオスロで開催される自殺予防国際会議において発表を予定している。また、都道府県の損失寿命結果の類型化については、地理情報システム(GIS)を活用して、地理学的特性を可視化する予定である。また、自殺関連要因の収集・整理を進める一方で、労働統計の中から完全失業率と自殺率との関連については、2013年5月に日本産業衛生学会に発表予定であり、その後正規・非正規雇用率との関連を分析した後に、損失寿命との関連についても相関分析を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
自殺による損失寿命の算出については、人口動態統計の直近データを追加した上で、再分析を行い、また地理情報システムでの表示のためのデータ入力を行うために、単純入力作業としての謝金の支出、プログラム変更と世代分析のためのアルゴリズム検討のため研究協力者(城西大学・内田博之氏)との作業・打ち合わせに国内旅費を支出する予定である。また本年度の成果を元に、都道府県別の自殺特徴についてクラスター分析を行った結果については、第27回国際自殺予防学会(9月, オスロ開催)に発表申請を終え、採択されていることから、外国旅費等、当初の研究計画を遂行するために計上した経費支出を予定している。
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