研究課題
近年、認知機能障害や高血圧を認める遺伝性白質脳血管症(CARASIL)にて特徴的なHTRA1遺伝子変異が、抗炎症サイトカインであるTGF-β1シグナル伝達制御に関連していること(Hara et al, N Engl J Med, 2009) が明らかになり、高血圧や無症候性白質病変を有する一般成人におけるTGF-β1の臨床的意義が注目されている。我々は、ドック受診者におけるDWL(Deep white matter lesion)とその進行(DWLP;progression of DWL)に、TGF-β1およびCKDが関与しているか検討を行った。今回の研究対象者は、平成15年と20年の2回連続で頭部MRおよび検診の同意が得られたドック受診者であった。上記受診者を、頭部MR年齢相応群(C群;46名)、白質変化なし群(DWL群;23名)、Fazekas分類上1つ以上のgrade増加有り群(DWLP群;12名)の3群に分けて、古典的リスク因子およびTGF-β1値について、MR所見との比較検討を行った。CKDは、推算糸球体濾過率eGFRを用いて定義した。得られた結果は以下の5つである。① DWL群およびDWLP群では、C群に比して、高血圧症、高脂血症、糖尿病が有意に多かった。② TGF -β1値は、C群(13.8 ng/ml)に対し、DWL群(28.2)およびDWLP群(37.6)で有意に高値を示した。③ TGF -β1高値に関するodds ratio(OR) は、C群に比して、DWLP群にて1.72と有意(p<0.05)であった。④ DWLP群は、推算糸球体濾過量eGFRが52.1と低く、C群に対する、DWLP群のCKD(+)のORは2.41と有意(p<0.05)であった。⑤ CKD(+)群のTGF-β1値は、CKD(-)群に比して有意に高値であった。結論として、TGF-β1は、経時的な白質病変増悪に対する臨床指標であった。DWL群やDWLP群は、認知機能低下や多発性脳梗塞の前段階であり、TGF-β1自体が、独立した認知機能低下や多発性脳梗塞の関連指標であり得ると考えられた。その背景に、TGF-β1値上昇をもたらしうるCKDの病態が関与している可能性が示唆された。
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Neurol Res.
巻: 36 ページ: 47-52
http://www.maneyonline.com/doi/pdfplus/10.1179/1743132813Y.0000000256