【目的】聴覚に関する従来の調査では回答者自身の自覚的データのみに基づく検討を行ってきた。ところがある現場調査の際、数名の作業者の聴覚に関する問診、並びにオージオメータによる聴力検査を行う機会があり、問診の自覚的聴覚とオージオメータの客観的聴覚との差が極めて顕著であることがわかった。このことから、自覚的聴覚データと客観的データとの比較検討することを目的とした。 【対象と方法】某県建設労働組合員を対象に毎年実施している質問紙調査のうちH24年度調査より対象者を抽出した。ばく露あり群では板金工、塗装工、鉄骨工及び防水工を、対照群のばく露なし群では造園工、事務、営業、設計、設備及び現場監督とし、これらを対象に「聴力に関する実態調査問診票」調査を行った。主な質問項目は日常の仕事における騒音ばく露頻度、振動ばく露頻度、有機溶剤取り扱い頻度、最近の自覚症、直近の健診の際の聴力検査結果とした。 【結果と考察】調査対象は1231名、回収率は42.9%(528名)だった。まず両群の有害因子ばく露比較を行ったところ、騒音、有機溶剤ばく露ではばく露が”よくある”と回答した割合がばく露あり群で有意に高かった。振動ばく露では両群共に有意差は見られなかった。自覚症では難聴傾向、耳鳴り、皮膚の荒れ、咳・たんの有訴率がばく露あり群で有意に高かった。また直近の健診における聴力検査結果では、左右1000Hz、4000Hz何れ共にばく露あり群の有所見率が有意に高かった。最後に、自覚的聴覚と客観的聴覚との比較では、回答者全体のクロス集計で有意差が認められた。また、職種毎でも全てで有意差が確認され、唯一見られなかったのは45歳以下の場合のみであった。このことから、質問紙調査等より得られる自覚的聴覚と、定期健診等におけるオージオメータなどを用いた実際の聴覚検査結果との間には大きな差のあることが示唆された。
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