小児科領域では、ウイルス性呼吸器感染症は1年を通じて最も多く認められる疾患である。本研究では、迅速性に優れ、重感染の検出も可能なリアルタイムPCRでの呼吸器系ウイルスの検出系を構築し、検出ウイルスについて重感染の有無、症状との関連性などを検討することを目的とした。 15種のウイルスをターゲットとするリアルタイムPCR法を作製し、1. 小児科病院での呼吸器疾患患者からの鼻汁を用いた病原ウイルスの検出、2. 呼吸器症状を呈さない児からのウイルス検出頻度を調査する目的で、一事業所職員の子供(幼児・学童年齢)から、1年間、週1回うがい液を採取しウイルスの検出 の2つを行った。エンテロウイルス、ライノウイルスについては、コンベンショナルPCR を実施し、産物の核酸配列を決定することにより遺伝子型別を実施した。 小児科病院からの検体:512検体について解析を行った。検出結果は毎週還元し、病院での流行対策に有効活用された。1検体あたりの検出ウイルス数は1種52%、2種23%で、検出陰性は17%であった。最も多かったのはA群ライノウイルスで、22%から検出された。A群ライノウイルスは他の呼吸器ウイルスとの重複感染率が54%と高い事が明らかとなったが、その遺伝子配列を比較したところ、複数の遺伝子型が同時期に流行しており、特定の血清型が重感染や重症化に関与しているのではないと考えられた。 小児のうがい液:8名から286検体を得た。うがい採取時の健康状態の聞き取りを基に、有症時と無症時に分けて比較したところ、無症時であってもライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、パレコウイルスなどが検出された。頻度の高い児では、無症時に採取した検体の42%からウイルスが検出された。呼吸器ウイルスのほとんどは持続感染すること無く宿主から排除されるため、無症状の児はウイルスの感染環において重要な役割を演じていると考えられた。
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