研究課題
平成25年度は、下記の3つの項目に関して、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム情報の取得、並びに、全ゲノムマッピング解析による点置換変異の検出を行い、結核菌の微小進化について新たな知見を得た。[I] 集団感染事例株:集団感染発生7年後に集団感染が再発生した事例に関して解析を行った。感染源である初発患者株との比較結果は、感染後すぐの発病者では変異なし、予防投薬中発病者で1塩基置換ならびに薬剤標的部位を含む領域の欠損、感染後7年後に発病したもので3塩基置換が検出された。感染後の時間経過とともに変異蓄積の数が増加することを示している。また、予防投薬がもたらす遺伝子遠位誘発という潜在的危険性を示しえた結果でもある。今後の感染経路追跡に有用な知見である。[II] 地域内分子疫学調査で見出された感染拡大株:縦列反復数多型解析で同一遺伝子型と判断された30株から6株を選定して全ゲノム解析を行ったところ、これらの菌株をサブクローンレベルに細分類できる一塩基置換変異を合計30カ所特定した。これらの変異をマーカーとすることで、30株は5つの亜分類群(ゲノム型別)に細分類できることを示した。これまで、同一クローンによる感染拡大と捉えられていた事象ではあるが、本解析により、実際には複数のサブクローンによる異なる感染伝播経路が存在していることが解明された。今後、結核感染経路の推定をより高い精度で行うための基礎的知見として活用できるであろう。[III] 初発時株と数年後の再発時分離株との比較:上記2例がヒトからヒトへの感染伝播を介しての変異出現を捉えたのに対して、同一人物の体内で生じる微小変化を捉えるために再発患者を対象に、初発時の株との比較を行った。再発までの期間が2から7年の患者4名について解析を行ったが、いずれの患者も初発株と再発株の間での変異は検出されなかった。
2: おおむね順調に進展している
明確な疫学的背景を持った菌株セットを解析対象として選定し、全ゲノム塩基配列データの比較解析を実行した。解析結果から、結核菌の感染伝播、発病、不顕性感染の各ステージにおける微小進化の出現について新たな知見を得ることができ、25年度の目標は十分に達成されたものと考えている。
引き続き、結核菌の様々な生活環における微小進化出現様式の解明に取り組む。 特に、前年度の解析により特異な遺伝子変異の誘発が示唆された、長期間にわたる薬剤への曝露事例(イソニアジドによる予防投薬)での解析を中心に取り組む。また、地域内感染拡大株に対する全ゲノムマッピング解析データを蓄積し、従来の遺伝子型別解析法に基づく分子疫学解析では追跡不可能であった、サブクローンレベルでの感染伝播様式の解明を目指したい。最終年度であり、本研究において得られた全ゲノムワイドでの遺伝子変異に関するデータを総合的に考察し、結核菌が遺伝的多様性を創生するための背景について、新たな解釈を提示したい。
年度末に参加予定であった、ゲノム微生物学会への参加を見送ったため、繰越金が発生した。26年度の学会出張費として、活用する予定。
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