【緒言】熱中症発症のリスクファクターに心疾患があげられるが,詳細な知見に乏しく、心筋梗塞モデルラットに熱暴露を行い,心負荷関連遺伝子および血清タンパク量の経時変化を分子病態学的に検討した.【方法】心疾患群(M群)は8週齢Wistar雄ラットを開胸,左冠状動脈前下行枝結紮後閉胸.開閉胸のみで未結紮のものをSham(S群)とし,術後7日間飼育した。M群およびS群を非熱暴露群(N)と麻酔下で内温37℃インキュベーターに90分静置する熱暴露群(H)に分け、MN、MH、SN、SHの4群を作成した。暴露直後(H0),2時間後(H2),4時間後(H4)、8時間後(H8)に断頭し,流出血液および心臓を採取.SNおよびMNを基準とし,SHおよびMHの左室に発現する心負荷関連遺伝子の定量的PCR,血清BNP45および心筋トロポニンT(cTnT)を測定した.加えて全群,心室横断面組織のHE 染色にて梗塞程度を評価した.【結果・考察】梗塞率はS;0%,M;28.3%±1.05(平均±SE).M各群間に有意差を認めなかった.BNP45はS,Mともに熱暴露で有意な増加を認めた.MHはH0で有意に増加,後に減少し,H8で再び増加した.このMH0増加は熱暴露に伴う臓器虚血からのRAS系作用が考えられるが,暴露から時間経過を伴ったMH8の増加は心筋虚血の増悪と考えた.一方でSHは有意差を認めなかった.cTnTの遺伝子Tnnt2は熱暴露でSは増加を認めず,Mに有意な増加を認めた.タンパクレベルではcTnTはS,Mともに熱暴露で有意な増加を示し,SHはH4で最も増加した.心筋傷害に伴うcTnT増加は2峰性を示すことからSH4増加は傷害初期の可溶成分によるものと考えられる.HIFの遺伝子Hif1aは熱暴露でMが有意に増加し,H2,4,8に有意差を認めた.すなわち心筋梗塞では熱暴露後も継続的な虚血状態が続くことで熱中症の発症・増悪リスクを高めると考えられる.
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