研究課題/領域番号 |
24590854
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
尾関 宗孝 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80549618)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA鑑定 / アレル頻度 / 法医学 |
研究概要 |
平成24年度においては、計175人分の血液サンプルについて、DNA抽出および市販の4つのDNAタイピングキット(Lifetechnologies社 Identifiler、Promega社 PowerPlex ESX17、PowerPlex CS7 custom、QIAGEN社 HDplex)を用いて37ローカスのDNAタイピングを完了した。 タイピングを行う中で、D5S818、D18S51、D19S433、F13B、FGA、Penta Eの6ローカスにおいて、これまでに報告の無かったアレルや報告例の少なかったアレルが認められた。そこで、これらのDNA断片をPCRにて増幅後クローニングし、塩基配列の確認を行った。その結果、D18S51・アレル29、D19S433・アレル9.2、Penta E・アレル19.4は既報のものと一致した。このうち、D18S51・アレル29、D19S433・アレル9.2は、日本人においての報告は無く、本研究が始めてである。また、D5S818・アレル6、F13B・アレル9c、FGA・アレル21.1は新規なDNA配列をもつアレルであることを明らかにした。 現在までに得られた計175サンプルからのデータについて、PowerSTAT ver 2.1ソフトウェアを用いて法医学的パラメータの計算を行った。対象とした37ローカスのなかでSE33は最も高い識別力を示し、F13Bは最も低かった。さらに、GENEPOPソフトウェアにより同一染色体上に位置しているローカスが遺伝的に独立であるか否かについて検討したところ、第15染色体上のFESFPSとPenta Eとの間で連鎖不平衡にあることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画においては健常人より血液試料の提供を受ける予定であったが、京都大学大学院医学研究科・医の倫理委員会より承認を得られたことから、京都大学大学院法医学講座にて保管されていた法医解剖由来血液試料を用いることとした。これにより計画予定の300人分の血液試料をほぼ確保することができた。しかしながら、いくつかの試料については採取時に既に腐敗していたと思われるものや、保存期間中の劣化等に起因すると思われる不完全なDNAタイピング結果が得られた。すなわち、対象ローカスの一部もしくは全体について、PCRによるDNA断片の増幅が不十分であったり全く行われないケースが認められた。本研究においては、部分的に得られたDNAタイピング結果は使用せず、全37ローカスでタイピングが完了した試料のみを以降の解析に供することとした。 研究計画における平成24年度の目標は、200人分の血液試料からのDNA抽出と、Identifiler、PowerPlex ESX17、PowerPlex CS7 customの3キットを用いたDNAタイピングの完了であった。一方、これまでに246人分の血液試料からのDNA調製を行い、HDplexを含めた4キットによるDNAタイピングを終えることができた。その結果、前述の理由から246人分の結果のうち175人分の試料について目的とするデータの採取を完了した。さらに現在までに得られた175人分のデータについて、種々のパラメーターの計算や連鎖不平衡の有無について検討した。低頻度もしくは新規と思われるアレルの塩基配列を調べたところ、日本人において始めて認められたアレルや全く新規な配列をもつアレルを確認することができた。以上のことより、全体として当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、残りの血液試料からのDNA抽出を継続するとともに、37ローカスについて同様に4つの市販キットを用いてDNAタイピングを行う。また、これまでのように新規または低頻度アレルが認められた場合は、随時PCRにてDNA断片を増幅後クローニングし、塩基配列解析に供して確認を行うこととする。全てのタイピング結果が得られた時点で、PowerSTATソフトウェアにより各種法医学的パラメーターを算出するとともに、同一染色体上に存在するローカス間の連鎖不平衡について、GENEPOPソフトウェアを用いて検討する。 これまでに得られた結果から法医学的識別力を計算したところ、最も高い識別力を示したSE33と最も低い識別力を示したF13Bの間には大きな差が認められた。識別力が大きく異なる計37のローカスについて単一キットによりDNAタイピング行うことは現実的に困難であり、実務への応用方法としては不適であると思われる。そこで、本研究より得られた知見を実務に応用する第一歩として、日本人のDNA鑑定に最も適した識別力の高いローカスセットを提案することが有用ではないかと考えた。諸外国においては様々な議論が重ねられているものの、日本においてはこれまで全く議論されてこなかったことからも、今後の日本のDNA鑑定を向上させる上で重要である。現在の法医実務において、劣化DNA試料のDNA鑑定は大きな課題の一つである。その解決策として断片化DNAに対応したLifetechnologies社より提供されているMinifierが用いられているが、対象ローカスが少ないのが難点である。このことから、Minifilerを補完するような高識別力のローカスセットを考え、新たなDNAタイピングキットとして実務応用への基礎を築くことにつなげていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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