研究課題/領域番号 |
24590859
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
笹尾 亜子 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (80284751)
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キーワード | 薬毒物スクリーニング / 法医中毒学 / 組換え抗体 / 一本鎖抗体 / 向精神薬 / フルボキサミン |
研究概要 |
本研究は抗体ファージライブラリー法などの遺伝子工学的技術によって抗薬物抗体を迅速に検索・調製し、それによる薬毒物の免疫学的スクリーニング法を構築する事を目的とするものである。平成25年度は、蛍光分光学的に抗原(フルボキサミン、FLV)を検出する事ができるQ-bodyタンパクを調製する目的で、Q-body(FLV)発現プラスミドの調製を行った。また、抗精神病薬フェノチアジンに対する一本鎖抗体の調製を行った。 既に同定済みであった抗FLV抗体遺伝子の抗原認識領域(VH、VL)遺伝子に対し、各制限酵素認識部位を配置するよう設計したプライマーを使用してPCR増幅し、目的遺伝子を各々の制限酵素で処理してアガロースゲルにて精製した。共同研究先から供与されたプラスミドベクターのVH、VL遺伝子を切り出し、精製済みの抗FLV抗体遺伝子を各々挿入した。調製したプラスミドベクターのシークエンス解析を行い、目的とする遺伝子配列である事を確認した。このプラスミドベクターを大腸菌に形質転換し、培養、発現誘導を行って目的タンパクの産生を確認した。現在、そのタンパクの精製及び蛍光標識を進めている。 また、抗精神病薬フェノチアジン類に対する一本鎖抗体を調製するため、平成24年度と同様に抗フェノチアジン抗体産生ハイブリドーマから抗体遺伝子のアミノ酸配列を決定し、一本鎖抗体発現用プラスミドベクターを調製した。さらに大腸菌発現系にて抗フェノチアジン一本鎖抗体タンパクを調製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は「抗体ファージライブラリーの調製と高親和性一本鎖抗体の検索」を実施するよう計画した。しかし、調製した抗FLV一本鎖抗体が想定以上の抗原結合能を持つ事を確認した事、また東京工業大学との共同研究が可能となった事から、平成26年度に予定していた「FLV検出システムの構築」についての実験を開始した。 当該課題ではFLV検出に必須となるQ-bodyタンパクを準備するため、1)Q-bodyタンパク発現用プラスミドベクターの調製、2)Q-bodyタンパクの調製、という流れで研究を進めた。1)については供与されたプラスミドベクターに対し抗FLV抗体遺伝子を挿入し、シークエンス解析にて遺伝子配列を確認した。さらに、これを形質転換した大腸菌から目的とするFLVに対するQ-bodyタンパクの発現を確認した。予備実験の結果において、調製したQ-bodyタンパクがFLVと結合して蛍光発光する事が確認できた。今後は、このQ-bodyタンパクの特性(抗原結合活性、特異性など)を調べていく予定である。 また、本年度は向精神薬の中で中毒事例の多い抗精神病薬フェノチアジンについて、FLVと同様に一本鎖抗体を調製した。既に調製済みであった抗フェノチアジン抗体産生ハイブリドーマからmRNAを抽出、cDNAを調製し、市販の抗体用プライマーセットを用いて抗体遺伝子の増幅を行った。シークエンス解析を行って抗体遺伝子のアミノ酸配列を同定し、FLVと同様に一本鎖抗体を調製した。調製した抗フェノチアジン一本鎖抗体は、フェノチアジンとの結合が確認されたが、保存中における活性低下が著明であった。構造安定性を向上させるためのアミノ酸改変が必要と考えている。 本年度実施した課題は平成26年度に予定していたものであるため、本研究の進捗状況としては「(2)おおむね順調に進展している」と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、前年度に作成したQ-bodyのFLV結合に関する基礎的知見(抗原特異性、その他薬物などに対する交差反応性)を調べ、その特性を明確にする。また、構築した方法によってさまざまな試料に含まれるFLVの検出が可能かどうかを検討する。さらに、当初予定していた抗体ファージライブラリーの調製と新規抗体創出の可能性について検討する。具体的な方策を下記に示す。 (1)Q-bodyの調製とFLV結合活性の検討:平成25年度に調製したQ-body発現大腸菌を大量培養し、集菌して超音波破砕する。遠沈上清を回収しアフィニティ精製を行う。得られたタンパク内チオール基の還元処理を行い、蛍光色素にて標識する。その後、異なるタグによるアフィニティ精製を行って最終精製物(Q-body)を回収する。Q-bodyのFLV反応性を蛍光分光光度法によって調べ、その検出限界を確認する。また、Biacoreなどの分析機器を用いて抗原結合に関する物理化学的パラメーターを調べる。 (2)各種試料中FLVの検出に関する検討:上記項目で調製したQ-bodyを用いて、FLVを添加した各種試料(血清、血液、尿など)からのFLV検出が可能であるかどうかを調べる。また、その検出感度等についての知見を得る。 (3)一本鎖抗体ファージライブラリーの調製と新規抗体の創出:既に調製済みの抗体遺伝子に対してError-prone PCRを行って突然変異を導入する。シークエンス解析を行って十分な変異の導入率等が確認された後、リンカーで繋いだ抗体遺伝子をファージミドベクターへ組み込む。これを大腸菌に形質転換し、ヘルパーファージを重感染させて一本鎖抗体ファージライブラリーを調製する。調製した一本鎖抗体ファージライブラリーを用いて、免疫抗原であった薬物に類似した化学構造を持つ薬物に対する反応性を示すファージが得られるかどうかを調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、年度途中より東京工業大学の上田教授との共同研究が開始した。そのため、当初平成26年度に計画していた研究内容を先行して実施する事とした。また、それに伴い平成25年度に購入を予定していた遺伝子解析用試薬類やタンパク質精製用の機器類の購入を中止した。以上の理由から次年度使用額が生じたものである。 平成26年度までの予算は、その一部を前年度までと同様に本研究課題に関わる試薬類、消耗品購入のための物品費に配分する。さらに、共同研究先において研究打ち合わせや実験指導を受けるための出張費、研究代表者が育児中であるため研究の遅滞を防ぐ目的で研究補助者の雇用を計画している。また、研究成果発表のための旅費や論文の英文校正のための支出を予定している。
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