研究課題/領域番号 |
24590864
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
一杉 正仁 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (90328352)
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キーワード | 胸部損傷 / 胸部特性 / 加速度 / 高齢 / 動物実験 / シミュレーションモデル |
研究概要 |
目的:高齢者における交通事故による胸部損傷を予防するためには、高齢者の胸郭特性を理解する必要がある。若年者と高齢者の胸郭特性の違いを明らかにするためにラットを用いた生体工学的研究を行い、さらに人への応用を試みる。 方法:シートベルトを着用した自動者乗員が事故時に外力を受けるモデルとして、台上で腹臥位にしたラットに、深麻酔下で加速度を作用させた。その際に、台、ラット胸骨部、脊椎部にかかる加速度を経時的に測定した。また体内の損傷を予測するために、胸腔及び腹腔内圧を計測した。高齢者のモデルとして、1年6ヶ月齢以上のウィスターラットラットに、22~107m/s2の加速度を与え、その際の各パラメーターを計測した。さらに、同一負荷条件を人体に適用した場合に、人体においても類似の応答が得られることを確認するため、人体有限要素モデルを用いた衝撃シミュレーションを実施した。 結果:ラットA (体重695 g)、ラットB (体重930 g)ともに、台加速度とほぼ同時に胸骨の加速度が増加した。胸骨加速度は両ラットとも複数のピークを持つ加速度波形となり、最大値はそれぞれ509 m/s2,454 m/s2とほぼ台加速度の設定値と一致した。脊柱加速度は若干胸骨加速度より遅れて発生し,それぞれ11.8 ms,7.2 msで最大値をとった。ラットの実験結果と人体有限要素モデルのシミュレーション結果を比較するため、加速度に対しスケーリングを行った。胸骨加速度については、スケーリングを施すことで人体モデルとラットとでほぼ同等の応答が得られた。 考察:ラットの実験結果と人体有限要素モデルのシミュレーション結果を比較したところ、胸骨加速度については人体とラットとでほぼ同等の応答が得られた。小型動物モデルでもスケーリングを行うことで、人体の胸郭剛性の評価を補完・代替できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シートベルトを着用した自動車乗員が、前面衝突事故に遭遇して胸部に外力が加わる状況を、動物実験モデルとして確立できた。すなわち、かかる加速度と身体各部の力学パラメーターの関係が明らかになった。次に、ラットに加えられた衝撃応答を人に外挿するために、相似比を用いて変換するスケーリングを行った。そして、これらの加速度を自動車衝突時の乗員および歩行者挙動を詳細に解析するために開発された人体有限要素モデル(THUMS:Total HUman Model for Safety)に応用することで、その応答を検証した。その結果、動物実験で得られた値を用いることで、人における胸部応答を明らかにすることができた。すなわち、小型動物モデルの実験結果をスケーリングすることで、人体胸郭剛性の評価ができると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究で、動物実験モデルを確立でき、さらに、人体シミュレーションモデルを応用することで、人の胸部特性評価に利用できることがわかった。この一連の流れを確立できたので、今後はさまざまな生体を前提に研究を進めていきたい。すなわち、本研究の大きな目的である高齢者の胸部特性を明らかにするために、加齢による胸部応答の変化を調べたい。すなわち、弱齢ラットを用いて同様の動物実験、スケーリング、シミュレーションモデルへの入力と結果の比較を行う。そして、加齢によってどの程度胸部特性に違いがあるかを具体的に明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は、本年度に弱齢ラットを用いてさらなる動物実験を行い、そして次年度にデータを分析、検討する予定であった。しかし、スケーリングテクニックによる加速度の換算と人体シミュレーションを用いた人での応答を明らかにする検討を本年度に行ったため、動物実験の一部を次年度に行うことになった。したがって、相応の経費がかかるとともに、研究計画の順序が変更になったことで、繰越金が発生した。 人体シミュレーションモデルの使用については、私が非常勤講師を務めている名古屋大学大学院工学研究科で行っている。したがって。当該施設への移動、残された実験、さらにシミュレーションモデルの画像解析等を目的に経費を使用する予定である。
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