目的:高齢者における交通事故による胸部損傷を予防するためには、高齢者の胸郭特性を理解する必要がある。人における胸郭特性を明らかにするためにラットを用いた生体工学的研究を行い、さらに人体有限要素モデルを用いて人への応用を試みる。 方法:シートベルトを着用した自動者乗員が事故時に外力を受けるモデルとして、台上で腹臥位にした高齢ラットに、深麻酔下で22~107m/s2の加速度を作用させた。その際に、台、ラット胸骨部、脊椎部にかかる加速度を経時的に測定した。この結果を人に応用するために人体有限要素モデルに同一負荷条件を適用し、類似の応答が得られかを確認した。そしてスケーリング手法を用いて、測定値を人の場合に換算した。 結果:ラットの胸骨及び脊柱で得られた加速度波形を入力して人体の挙動を確認したところ、胸骨の背側への移動に始まる胸郭の変形が確認できた。そして、約35ms後に胸骨加速度が0になり、その後復元する挙動が確認できた。さらにスケーリングの手法を用いて、ラットで計測された加速度の経時変化を外挿したところ、波形の不一致が確認された。しかし、ピーク値を換算したところ、人における傷害値として矛盾しないことが確認できた。 考察:ラットを用いた落下試験を実施し、加速度が作用した際の胸郭応答を評価した。人体有限要素モデルを用いた衝撃シミュレーションを行い、さらにスケーリングを行うことで、人体の胸郭剛性の評価を補完・代替できる可能性が示唆された。
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