研究概要 |
中毒原因薬物の迅速かつ確実な同定・定量法を確立することは,法中毒学・救命救急の分野において重要な研究課題の一つである。現在,血中薬物の同定において,もっとも主流な分析法はガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)である。しかし,このGC/MS法では,タンパク質・核酸・多糖類等の生体高分子の除去(前処理)が必要となるため,測定結果がでるまでに数時間,場合によっては数日を要することもある。そのため,これに替わる新しい迅速分析法の開発が現在求められている。本研究では,中毒原因薬物の同定・定量を,血液の前処理を含め4分以内に実行可能な高速液体クロマトグラフ/質量分析計(HPLC/MS)を用いた超迅速・簡易分析法の確立を目的としている。本年度は,タンパク質等含む生体試料の直接注入が可能と予想されるHPLCカラムについて,薬物のトラップ率などの調査をおこなった。具体的には,Waters Oasis HLBシリーズ,昭和電工MSpakシリーズ,資生堂CAPCEL PAKMFシリーズ,メルクLiChrospher 100 Diol,レギスPINKERTON GFFシリーズ等のHPLCカラムについて,固定相の漏出チェック並びにMSへの影響,各種薬物のトラップ率の調査を行い,目的薬物が漏出されることなく,確実にトラップできる充填剤の検索を行った。またその際の移動相の検討も行った。今後はこれらの結果を元に,バックフラッシュカラムスイッチングシステムの構築を順次行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
生体試料中の薬物分析の従来法では,煩雑な前処理が必要であることが多く,分析者の技量によってデータのバラツキが生じることもあった。この点を踏まえ,前処理を大幅に簡略化した高速液体クロマトグラフ/質量分析計を用いたバックフラッシュカラムスイッチングシステムの再構築を目指す。また,薬物のマススペクトルの収集も行う。各種薬物,内部標準物質を相互分離させるための最適条件(特に移動相),すなわち酢酸アンモニウム, 酢酸, ギ酸, メタノール,アセトニトリルなどを用いて,その濃度,混合の割合,流速,グラジエント率などの検討を行い,多種類の薬物及びその代謝物の一斉分析の条件設定を行う。さらに,生体試料に標準物質を添加し,検出限界・定量性・回収率および再現性について検討を行う予定である。
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