研究課題/領域番号 |
24590872
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
原 健二 福岡大学, 医学部, 講師 (00090738)
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研究分担者 |
ウォーターズ ブライアン 福岡大学, 医学部, 助教 (00609480)
久保 真一 福岡大学, 医学部, 教授 (10205122)
柏木 正之 福岡大学, 医学部, 助教 (70301687)
松末 綾 福岡大学, 医学部, 助教 (70309920)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 体組織中薬物分析 / 試料処理の簡素化 / アセトニトリル抽出 / GC-MSの高速化 / 水素キャリアガス |
研究概要 |
本研究の目的は、死因究明のための薬物分析過程を効率化し、体組織試料から多種多様の薬物をスクリーニングするシステムを作成することである。そのため、簡素な試料処理、GC-MS測定の高速化を充実させる検討を行っていく。1.簡素な試料処理について、商品化されている固相抽出に依らない溶媒だけの方法を検討した。薬物の種類は大きく分けて、酸性薬物、塩基性薬物で、性質が大きく異なるので、基本的には2種の方法を検討した。抽出処理、クロマトグラムの評価のため、指標物質の意味で、酸性薬物処理には2-ナフチル酢酸、塩基性薬物にはリドカイン-d10を添加して行った。方法の実用化を考慮して、両方法の過程は並行して進むように検討した。抽出溶媒にアセトニトリルを使い、酸性薬物にはアンモニア水、塩基性薬物にはギ酸を添加し、イオンペア抽出を検討した。死体からの試料では脂質が障害になったので、抽出液をヘキサンで洗浄する方法を採用し、コレステロール、脂肪酸などの生物由来の脂質を除去することに効果あることを認めた。しかし、死後変性過程で分析を妨害する脂質が産出されることがわかった。2.分析の効率化をはかるため、体組織の簡易試料処理を考案し、抗原抗体反応の簡易検査キットの有効利用の検討を始めた。3.水素ガスをキャリアガスに検討した。水素とヘリウムの物理的性質がかなり異なるようであったが、線速度で調整すれば、ほとんど同じ保持時間を示すクロマトグラムを得ることができた。4.GC-MSの高速測定の改良を検討した。吸着性が低いカラムを組み合わせることで、ピーク幅が狭いピークを得、測定時間も1分ほど短縮することができ、現GC-MS装置の性能の限界までの条件で測定できるところまできた。来年度は、ヘリウムガスの供給が不安定になっており、水素キャリアガスを実用化に向けて、研究を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の主な課題は、1.試料処理の簡素化ならびに迅速化、2.GC-MS測定の高速化、3.キャリアガスに水素の検討である。3つの課題で、仮定した障害を解決する方針で研究を進めた。以下のように、大きな障害を解決する目処が付いたので、平成24年度の計画は順調に進んだものと考える。 1. 試料処理では、できるだけ操作が簡単でかつ抽出効率を保てる方法を作成することを目的とした。LC分析の試料処理によく利用されるアセトニトリル抽出を選択し、GC-MSへの応用を図った。しかし、大量の脂質が夾雑物として抽出される大きな問題があった。そこで、先ず、揮発性が低いコレステロール、トリグリセライドなどを除去する方法を調べ、検討した。その結果、アセトニトリル抽出をヘキサンで洗浄することで、コレステロールを簡単に除けることがわかった。しかし、トリグリセライドの分解物でもある脂肪酸類が大量に存在する問題が残った。脂肪酸類除去の方法に関する情報を得て、現在、その利用に取り掛かっている。 2. GC-MSの測定では、本研究が始める前に、2つの短いキャピラリーカラムの組み合わせにより、高速化の基礎的条件を開発した。しかし、この条件ではピーク幅がやや広く、感度も低めで、高速測定の利点が活かされなかった。一つのカラム(第一段)に吸着が小さいと思われるRtx-200をところ、ピーク幅、ピーク高に効果が見られ、その応用を進めるところまでになった。 3. 水素ガスをキャリアガスとして利用することは、ヘリウムガスの使用と計算的に条件が同じになる条件を設定して、使用したところ、薬物ピークの保持時間はヘリウム仕様とほぼ同様であった。しかし、感度については、水素の場合が、ヘリウムの仕様に比べ、60%~70%になった。これは、試料調製の精度が上がれば、感度が上昇すると考えられるので、次年度の研究で、実用化可能と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年で残った課題は、試料調製法を完成させることである。すなわち、その完成により、水素ガスをキャリアガスとしたGC-MSの高速測定が可能になる。また、この試料処理で得られた試料をLC-MS/MSで測定することができ、法医中毒学における薬物スクリーニングのシステムを構築することができる。そこで、今後、試料調製に力点をおく。 試料処理の方針としては、特殊加工し、商品化された固相抽出のカートリッジを使わずに、簡単で迅速な方法を作ることである。平成24年度で問題として残った課題は、抽出物に含まれる脂肪酸類を除去する方法である。その方法として、1.有機溶媒抽出法(液液抽出)を使って、脂肪酸と薬物を分離する方法、2.脂肪酸の塩を作って、脂肪酸を薬物抽出液から除去する方法の2つが考えられる。1では、薬物と脂肪酸の性質の差が明確ではなく、抽出が複雑になることも懸念される。2は、もし、脂肪酸と塩を形成する塩基があれば、塩基性薬物から脂肪酸をきれいに除去できる可能性がある。そこで、今後、適切な塩基があるかを調べ、検討していく。 試料調製法が完成したら、本研究の実用化を目指して、研究を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の未使用分: 総額 340,931円 (旅費:代表者の300,000円を予定していたが、 平成24年度内では未使用になったため、物品費への運用になった。未使用分は77,025円。物品費:263,906円) 平成24年度の研究状況から、試料調製法の確立ならびに高速GC-MS測定の実用化が次年度のテーマとなる。 本研究の実用化に向け、高速GC-MSにおけるデータベースの作成を行うため、平成24年度の未使用分(263,906 円)は、標準試料、分析カラム、試料調製用器具などの購入(物品費)に充てる。研究代表者は未使用分(77,025円)を研究成果の発表旅費の一部にあてる。
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