研究概要 |
未治療のIBS症例21例(女性11例、平均年齢23歳)ならびに健常者19例(女性9例、平均年齢21歳)を対象とした。最大容量600mLのバロスタットバッグが装着されたカテーテルを経肛門的に挿入し、直腸内に留置した。検査プロトコールは、バロスタット装置の制御下でバッグ内の最小伸展刺激圧を同定後、最小伸展刺激圧+2 mmHgを稼働刺激圧(intraoperation pressure: IOP)として安静時20分間のバッグ容量を測定した。その後、コルチコトロピン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone: CRH)2μg/kgを経静脈的に投与した後、さらに120分間のバッグ容量を測定し、平均バッグ容量、収縮刺激回数を評価した。 IOP、安静時の収縮回数、平均バッグ容量はIBS群、健常群の間で有意差は認められなかった。CRH投与後、IBS患者の平均バッグ容量は健常者より有意に低下した (123±61 vs. 160±50 ml, 0-60分後, p<0.05; 117±65 vs. 169±55 ml, 60-120分後, p=0.01)。CRH投与後のIBS患者の大腸収縮回数も健常者より有意に上昇した (18.4±24.7 vs. 6.4±18.1/h, 0-60分後, p=0.10; 18.6±17.6 vs. 7.8±11.6/h, 60-120分後, p<0.05)。 CRH静脈投与によって大腸運動増加が観察でき、その変化はIBSの方が健常者より大きいことが明らかになった。これらの所見は、中枢におけるCRHによる作用と同様に末梢におけるCRHもまたIBSの消化管運動機能を増悪させる作用を有する可能性が示唆された。消化管機能を調整する腸管神経叢、免疫作用に対してCRHとその受容体がIBSの病態生理に何らかの役割を果たしているかもしれない。
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