サルコペニアを呈する骨格筋組織においては、異所性の脂肪蓄積が特徴的に認められ、インスリン抵抗性をしめすことが知られているが、その制御機構は必ずしも明らかになっているとはいい難い。C2C12培養骨格筋細胞に対して、パルミチン酸を添加することにより、脂肪滴形成が生じるとともにインスリン刺激によるAktリン酸化上昇レベルが抑制された。すなわち細胞レベルでのインスリン抵抗性が誘導されることを明らかにした。つづいて、骨格筋細胞におけるSirt-1発現について検討するとともにその生理学的、病理学的役割についても検討をくわえた。C2C12に対するパルミチン酸添加は、Sirt-1発現レベルには影響を及ぼさなかった。そこで、Sirt-1の発現レベルを上昇させる因子を探索的に検討したところ、イソプロテレノールによる交感神経ベータ受容体刺激では、効果が認められなかったが、骨格筋に対する効果が知られているビタミンD3の添加によりSirt-1発現レベルが増加した。ビタミンD3添加により、パルミチン酸による細胞レベルでのインスリン抵抗性は改善が認められた。また、C2C12細胞において、ビタミンD受容体が発現していること、またイソプロテレノール刺激によりビタミンD受容体の発現が上昇することも明らかになった。選択的ベータ2受容体刺激薬や受容体拮抗薬をもちいた検討により、ビタミンD受容体の発現制御には、交感神経ベータ2受容体が関与していることも明らかになった。また、イソプロテレノール添加やビタミンD3添加により、C2C12細胞から、神経栄養因子であるGDNFや血管新生因子であるVEGFの発現・分泌が上昇していた。マウスに4週間の運動負荷(トレッドミル)をおこなったところ、ヒラメ筋におけるVEGFの発現は上昇していた。一方、下肢懸垂による廃用性筋萎縮モデルにおいてVEGFの発現は低下していた。
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