研究課題/領域番号 |
24590878
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯島 勝矢 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 准教授 (00334384)
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研究分担者 |
大田 秀隆 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (20431869)
柴崎 孝二 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任研究員 (20625735)
江頭 正人 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (80282630)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 血圧変動 / 動脈壁硬化 / 降圧管理の質 / デバイス開発 / 遠隔管理を通した健康維持 / 血管石灰化 / 新規モデル実験構築 |
研究概要 |
【臨床】動脈壁硬化の進んだ高齢者の血圧管理に関して、「カフレス・ウェアラブル血圧センサー」を臨床診療に導入し、超短期変動を視野に入れ降圧管理の質の向上を目指した。東大病院・老年病科の高齢外来患者において、特に自由行動下での血圧変動を中心にこのセンサーで解析した。外来入室時の白衣現象をはじめ、階段昇降や長距離歩行による血圧上昇等を詳細に解析し、負荷による血圧上昇の遷延の有無や過降圧なども確認し、降圧管理の質の向上に繋げることが出来た。なかでもこのデバイスによりDouble Productを算出できることから、心機能低下症例に対しての過剰な負荷予防にも有用であった。 【臨床】被災地の一つである岩手県釜石市平田総合運動場の仮設住宅入居高齢者に対して、血圧遠隔管理システムを構築した。参加者に対して毎日朝夕の2回定期的に自己測定を促し、データを送信して頂いた(KDDI通信)。送信データの判読において、特に過剰な血圧変動に対して的確に評価し、月1回のマンスリーレポート作成に反映させ、本人へフィードバックした。このシステムにより厳格な血圧管理だけではなく、本人への継続性を持った健康増進への意識啓発および閉じこもり予防を達成し得た。 【基礎】血圧変動は動脈壁硬化が背景となりやすく、その主病態の一つが血管石灰化である。慢性腎不全による高リン血症を臨床背景として、今回新たな血管石灰化ex vivoモデルを構築した。マウス大動脈を摘出し、高リン状態で培養することにより大動脈切片に石灰沈着が誘導できることをKossa染色や大動脈内カルシウム含有量測定にて同定し得た。また、代表的な骨関連転写因子Runx2が急性期(高リン刺激後1~3日)に誘導され、逆に刺激後4~6日に平滑筋分化マーカーが低下し、このex vivoモデルにおいても高リン刺激により骨芽細胞様形質転換が誘導されていることが同定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
臨床における研究としては、開発中の「カフレス・ウェアラブル血圧センサー」に関して、動脈壁硬化のデータを同時に取得しながら高齢者の血圧変動を詳細に記録するところまで進んでいる。特に後期高齢者における降圧管理においては、過度な降圧が危険であるため、超短期変動を視野に入れた上での臨床診療への導入は降圧管理の質向上に非常に有用であった。また、被災地の仮設住宅入居高齢者に対する血圧遠隔管理システムに関しては、大きな通信トラブルなどもなく、また比較的順調に参加人数も増加しており安定した活動になっているため、ほぼ構築し得た状態である。参加者は定期的に自己測定およびデータ送信を継続できている。年間通してのデータを判読していくと、特に過剰な血圧変動を示している参加者の有無も把握しやすく、本人への血圧管理に有益であった。月1回作成のマンスリーレポートの中にもワンポイントアドバイスを盛り込み、本人への血圧管理を背景とした健康増進への意識啓発に繋がっており、さらにはサポートセンターの職種たちによる閉じこもり予防にも確実に反映されている。 さらに基礎研究として、慢性腎不全による高リン血症を臨床背景として、元々培養系細胞実験を推し進めてきたが、今回、血管石灰化誘導における新たなex vivoモデル(in vivo動物モデルと細胞実験の間を担う位置づけ)を構築し得た。
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今後の研究の推進方策 |
臨床診療に導入した開発中の「カフレス・ウェアラブル血圧センサー」に関して、今後も症例を重ね、より大きいデータベースを構築し、今まで以上に安定したデータ取得を目指す。さらには汎用性の高いデバイス開発へつなげていく。特に臨床診療で行われている脈波伝播速度(Pulse Wave Velocity)とのデータと比較検討し、血圧センサーにおける収縮期血圧の算出のためのパラメーター設定に対して、より円滑に血圧変動を描出できるように努める。 被災地の仮設住宅入居高齢者に対する血圧遠隔管理システムに関しては、今後も現地のサポートセンターの多職種活動により参加者を募っていく。特に閉じこもり傾向の方や様々な疾患を持ち合わせる高齢者に対して積極的に参加を呼び掛ける。そして、定期的な自己測定を通じて、自助・互助・共助の精神の下、仮設住宅内での健康維持につなげていく活動に発展させていく。 基礎研究において、高リン血症を伴う慢性腎不全の臨床病態を背景とした今回の新たな血管石灰化ex vivoモデルを構築したことを踏まえて、このモデルにおいて血管平滑筋細胞の骨芽細胞様形質転換誘導における様々な遺伝子発現を詳細に検討する。また、この現象に血管平滑筋細胞の細胞老化現象がどのように関与するのか、ひいては長寿遺伝子sirtuinの代表的なホモログであるSIRT1の関与を検討していく。そのために、週齢の異なる(老若)マウスからの大動脈を用いて検討し、さらにはSIRT1ノックアウトマウスを用いて、血管石灰化誘導の差異を検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
臨床開発中の「カフレス・ウェアラブル血圧センサー」に関しては、特に脈波を検出する耳たぶセンサーおよび胸部での心電センサーのさらなる開発に費用を充てることを検討する。また、本研究を円滑に進めるために、機器準備やデータ集約(血圧センサーのデータおよび被災地との血圧遠隔管理システムのデータ)のための人件費を予定する。 今回、基礎研究において確立した高リン血症を伴う血管石灰化の慢性腎不全ex vivoモデルにおいて、細胞老化の関与および長寿遺伝子sirtuinの一つであるSIRT1の関与を検討していく。そのために、SIRT1ノックアウトマウスを用いながら、血管石灰化形成におけるSIRT1/p21経路の関与を詳細に検討する。よって、SIRT1ノックアウトマウスの調達と繁殖、様々な発現を想定するための抗体などに費用を使用する予定としている。
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