研究課題/領域番号 |
24590878
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯島 勝矢 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 准教授 (00334384)
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研究分担者 |
大田 秀隆 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (20431869)
柴崎 孝二 東京大学, 医学部附属病院, 届出診療医 (20625735)
江頭 正人 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (80282630)
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キーワード | 血圧変動 / 動脈壁硬化 / 降圧管理の質 / デバイス開発 / 遠隔管理を通した健康維持 / 血管石灰化 / 新規モデル実験構築 |
研究概要 |
【臨床研究①】東日本大震災の被災地である岩手県釜石市平田総合運動場および大槌町の吉里吉里地区の仮設住宅入居高齢者に対して、見守り機能を兼ねた血圧遠隔管理システムを継続している。参加者は毎日朝夕の2回定期的に自己測定後にデータ送信(KDDI通信)し、送信データを判読後に月1回のマンスリーレポートを現地にフィードバックしている。特に管理不良や過剰な血圧変動等に対し的確に評価し、現地のかかりつけ医による治療へも反映できている。さらに本人の健康増進への意識啓発および閉じこもり予防への付加的な効果も得ている。 【臨床研究②】高齢者血圧管理では動脈壁硬化を背景に血圧変動が大きくなる。そこで超短期変動に焦点をあて「ウェアラブル血圧センサー」を臨床診療に導入し、降圧管理の質の向上を目指した。東大病院・老年病科の高齢外来患者において、特に自由行動下(外来入室時の白衣現象、階段昇降や長距離歩行、休憩等)において、負荷による血圧上昇の遷延の有無や過降圧など自由行動下での血圧変動を中心にこのセンサーで解析し、降圧管理の質の向上に繋げることが出来た。なかでもこのデバイスによりDouble Productを算出できることから、心機能低下症例に対しての過剰な負荷予防にも有用であった。 【基礎研究】動脈壁硬化の現象は血圧変動を生み出し、その主病態の一つが血管石灰化である。慢性腎不全による高リン血症を臨床背景として、今回新たな血管石灰化ex vivoモデル(マウス大動脈摘出下、高リン状態での培養による大動脈切片の石灰化誘導)を構築し、1)若齢マウスと比較して高齢マウスの易石灰化現象、2)初期変化としての骨芽細胞様形質転換、3)STZ投与糖尿病モデルマウスの大動脈の易石灰化現象、4)長寿遺伝子Sirt1ノックアウトマウスにおけるSirt1の血管石灰化抑制効果、などを同定し得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【臨床研究】岩手県内2か所の仮設住宅の入居高齢者に対する血圧遠隔管理システムにおいて、参加者も安定して継続測定が出来ている。月に1回返却されるマンスリーレポートのワンポイントアドバイスや血圧判読コメントを参考に参加者のモチベーションアップにも繋げられている。仮説住宅内にあるサポートセンターと連動しているシステムはほぼ構築されており、参加者への血圧管理を背景とした健康増進への意識啓発だけではなく、サポートセンターの職種たちによる閉じこもり予防にも確実に反映され有効性が確認出来ている。開発中の「カフレス・ウェアラブル血圧センサー」に関しても、特に後期高齢者への降圧管理における過度な降圧を詳細に確認できるデバイスとして価値が高いと考えられ、より幅の広い臨床診療への応用を目指して症例を積み重ねている。 【基礎研究】慢性腎不全による高リン血症を臨床背景として、元々培養系細胞実験を推し進めてきたが、今回、血管石灰化誘導における新たなex vivoモデル(in vivo動物モデルと細胞実験の間を担う位置づけ)を構築し得た。血管石灰化の初期変化をex vivoモデルで詳細に検討出来ており、また糖尿病や加齢による血管石灰化の進行のしやすさ、長寿遺伝子Sirt1の血管石灰化抑制効果など、多岐にわたる実験系において本モデルの有効性や血管石灰化実験における遺伝子改変モデルへの応用の可能性などを十分示唆することが出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
【臨床研究1】被災地の仮設住宅入居高齢者に対する血圧遠隔管理システムに関しては、現時点では参加者が急増している時期ではないため、自宅を持つことの出来ていない現在の参加者に対しても積極的に血圧測定を継続してもらい、特に閉じこもり傾向の方や様々な疾患を持ち合わせるハイリスク高齢者に対して積極的に参加を呼び掛け、同時に見守り機能を発揮していく。そして自助・互助・共助の精神の下、仮設住宅内での健康維持につなげていく活動に発展させていく。 【臨床研究2】カフレス・ウェアラブル血圧センサーの開発に関して、今後も症例を重ね、より大きいデータベースを構築し、今まで以上に安定したデータ取得を目指す。さらには汎用性の高いデバイス開発へつなげていく。特に臨床診療で行われている脈波伝播速度(Pulse Wave Velocity)とのデータと比較検討し、血圧センサーにおける収縮期血圧の算出のためのパラメーター設定に対して、より円滑に血圧変動を描出できるように努める。 【基礎研究】高リン血症を伴う慢性腎不全の臨床病態を背景とした今回の新たな血管石灰化ex vivoモデルを構築したことを踏まえて、このモデルを用いた今後の多岐にわたる実験系への応用を検討する。特にSirt1ノックアウトマウスを用いた実験の手応えから、今後様々な遺伝子改変マウスへの応用が期待できる。さらに、血管石灰化現象への薬剤による抑制効果も十分検討していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
血管石灰化に関する基礎研究の部分で、実験に用いる消耗品などが平成25年度においてはあまりかかっておらず、さらに研究における人件費もあまり多くはならなかった。 今年度(平成26年度)においては臨床研究および基礎研究を並行して円滑に推し進めるにあたり、人件費に活用する予定である。
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