漢方薬は生体の恒常性の維持やバランスに重きを置く薬物治療体系であり、生体の重要な制御システムである免疫系は、必然的に漢方薬治療の大きな標的となっている。しかし、「免疫応答の司令塔」である樹状細胞(DC)の機能に対する漢方薬の作用は未だ殆ど明らかにされていない。また、DCがその機能を発揮するためには、適切なタイミングで適切な場所へ遊走することが重要であるが、これまで時空間的なDC機能の研究は少ない。形質細胞様樹状細胞(pDC)はDCサブセットであるが、通常型DC(cDC)とは異なりI型インターフェロンを産生する特性を持ち、自己免疫疾患の発症に密接に関与していると考えらている。そのため、本研究は、pDCを創薬標的として、有用な治療薬が殆どない自己免疫疾患に対する創薬シードを、漢方薬や漢方薬の薬理活性成分から見出すことを目的とした。 まず、ケモカインであるCCL21によるpDCの遊走に対する抑制効果を指標に漢方薬の約100種類以上の成分について検討した結果、Astragaloside IV、Berberine chloride、Curcumin、Isofraxidin、Oxymatrineに強い抑制活性を見出した。さらに、ケモカインであるCXCL12によるcDCの遊走に対する抑制作用を検討したところ、Berberine chloride、Curcumin、Isofraxidinは有意な抑制作用を示したが、Astragaloside IVとOxymatrineは抑制作用を示さなかった。従って、Astragaloside IVとOxymatrineはpDCに対して特異的な機能抑制作用を示すことが明らかとなった。そこで、マウスの全身性エリテマトーデス病態モデルでAstragaloside IVとOxymatrineの効果を検討したが、現在までのところ有効性は見出せなかった。
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