高齢期にはストレスに対する脆弱性が高くなる。ストレス関連疾患であるうつ病は認知症とならび、老年期精神疾患を代表するものである。しかし、高齢期のストレスに関する研究の多くは社会・心理的もしくは臨床的観点からのアプローチであり、その神経基盤については未だ不明な点が多い。エストロゲンは生殖機能だけではなく、ストレス応答の調節などにおいて重要な役割を果たす。我々はこれまでに、老齢ラットを用いて脳内エストロゲン受容体(ER)-β mRNAの発現を解析した一連の研究から、加齢によってER-β発現量が部位特異的に減少すること、また、その加齢の影響には性差があることを明らかにしてきた。そこで本研究では、高齢期のストレス応答におけるエストロゲンの役割に注目し、加齢がER-βおよび脳内ストレス関連因子に及ぼす影響およびその性差について明らかにすることを目的とした。 最終年度は、前年度までに作製した実験群[(G1)若齢期無処置群(雄)、(G2)若齢期ストレス群(雄)、(G3)若齢期無処置・老齢期無処置群(雄)、(G4) 若齢期無処置・老齢期ストレス群(雄)、(G5) 若齢期無処置・老齢期ストレス+ER-β遮断薬投与群(雄)、(G6) 若齢期ストレス・老齢期ストレス群(雄)、(G7)若齢期無処置・老齢期無処置群(雌)、(G8) 若齢期無処置・老齢期ストレス群(雌)]のラット脳サンプルを用いてセロトニンやオキシトシン等のストレス関連因子に対する免疫組織化学染色を行った。縫線核セロトニンの発現解析は終了しており、すでに第88回日本薬理学会年会において成果発表を行っている。 研究期間全体を通じての本研究の成果から、高齢期の脳内ストレス応答は若齢期のそれとは異なること、また加齢による影響は脳部位特異的であることが明らかとなった。
|