研究課題/領域番号 |
24590896
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
花輪 壽彦 北里大学, 東洋医学総合研究所, 教授 (40164892)
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研究分担者 |
日向 須美子 北里大学, 東洋医学総合研究所, 研究員 (60353471)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 漢方薬 / 麻黄湯 / 麻黄 / MET阻害剤 / 非小細胞肺がん / 分子標的治療薬 / EGFR-TKI |
研究概要 |
非小細胞肺がんでは、EGF受容体変異による増殖シグナルの恒常的な活性化が悪性化の原因となっている。このような肺がんに対し、イレッサやエルロチニブなどのEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が高い治療効果を示し、ファーストライン治療薬となっている。一方、EGFR-TKI耐性による再燃が新たな問題となり、最近の研究から、耐性獲得メカニズムのひとつとしてMETの過剰発現が見出され、MET阻害剤の併用が、EGFR-TKI耐性克服の鍵になると期待されており、MET阻害剤の開発が急務の課題となっている。 私たちはこれまでに麻黄湯の構成生薬である麻黄が、MET阻害作用を有することを見出し、MET阻害剤としての有効性を示してきた。本研究では、MET発現の高いEGFR-TKI耐性ヒト非小細胞肺がん細胞株であるA549細胞及びH1975細胞を用いて、細胞増殖に対するエルロチニブと麻黄の併用効果を解析した。両細胞株の増殖に対する麻黄エキスの効果を解析した結果、麻黄エキスの濃度依存的に細胞増殖が抑制された。さらに麻黄とエルロチニブを併用することで、より高い増殖抑制を惹起することが明らかとなった。 本研究の成果を臨床応用に導くためには、麻黄に含まれるエフェドリンアルカロイドによる動悸、血圧上昇、胃腸障害などの副作用が懸念される。これまでの研究で、エフェドリンアルカロイドにMET阻害作用がないことを確認していたため、新たな研究項目としてエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを作製し、耐性獲得非小細胞肺がん細胞の増殖に対する効果を解析した。この結果、元の麻黄と同様に増殖抑制効果があることを確認できた。 次年度は、麻黄及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄について、耐性獲得非小細胞肺がん細胞の増殖シグナルに対する効果とin vivoの腫瘍増殖に対する効果を詳細に検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)EGFR-TKI耐性獲得ヒト非小細胞肺がん細胞株を用いた麻黄とエルロチニブの併用効果の解析:麻黄エキスは単独で耐性肺がん細胞株の増殖を抑制し、さらにエルロチニブとの併用により、より高い増殖抑制を引き起こすことを明らかにした。 (2)麻黄の主成分・エフェドリンアルカロイドのMET阻害に対する効果の予備的検討:当初の研究計画に含まれていなかったが、(1)の研究結果から、麻黄がEGFR-TKI耐性肺がんに有効に作用することが明らかとなったため、臨床応用に向けた課題の克服に関する研究を前倒し、有効性の裏付けとなる分子機構の解析と並行して実施することとした。麻黄に含まれるエフェドリンアルカロイドは、動悸、血圧上昇、胃腸障害などを引き起こすことから、肺がん患者さんへの投与の際にこれらの副作用が懸念されていた。そこで、予備検討レベルではあるが、エフェドリンアルカロイドを除いた麻黄エキスを作製し、耐性肺がん細胞に対する効果を解析した結果、もとの麻黄と同じレベルの増殖抑制効果を有することがわかった。この結果は、肺がん患者さんの治療に向けた橋渡しとして、大変重要な知見となった。 (3)MET、EGF受容体及び下流のシグナル分子(Akt, ERK)のリン酸化に対する麻黄とエルロチニブとの併用の効果の解析:耐性肺癌細胞株を用いて、各シグナル分子を検出するための条件検討が完了し、詳細な解析を開始している。 (4)肺がん細胞移植ヌードマウス作製のための移植条件の検討:動物実験は、単独での実施が困難であったため、研究計画通り実験補助のための研究補助員の募集を行った。適任者の採用に少し時間を要したが、本年3月に研究補助員を採用し、動物実験を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
麻黄、及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄について、EGFR-TKI耐性獲得ヒト非小細胞肺がん細胞の増殖に関連するシグナルに対する抑制効果を検討する。具体的には、c-Met及びEGF受容体、さらに下流のシグナル分子(Akt, ERKなど)のリン酸化の変化をWestern-blotting法により解析する。また、同時にエルロチニブとの併用効果も解析する。さらに、c-Met及びEGF受容体の発現に対する影響をリアルタイムRT-PCR法及びWestern-blotting法で解析する。これらの検討から、麻黄のEGFR-TKI耐性獲得ヒト非小細胞肺がん細胞に対する作用機構を明らかにする。 また、耐性獲得肺がん細胞を移植したヌードマウスを用いて、in vivoにおける麻黄、あるいはエフェドリンアルカロイド除去麻黄の単独あるいは、エルロチニブとの併用による効果を解析する。動物実験は、北里大学動物実験委員会による審査及び承認を受けた後、「北里大学における動物実験等に関する規程」に従って行う。効果の判定は、経時的に腫瘍サイズ及びマウスの体重を計測し、腫瘍サイズがマウスの体重の10%を超える前にマウスを過麻酔により屠殺し腫瘍を切除し、腫瘍重量から最終的な効果判定を行う。また、マウスの体重から毒性の判定を行う。さらに、腫瘍組織切片を作製し、c-Met、リン酸化c-Met、リン酸化EGFR、リン酸化ErbB3を免疫組織学的手法で検出する。これらの結果から、in vivoにおける麻黄、あるいはエフェドリンアルカロイド除去麻黄の効果を分子レベルで明らかにする。 さらに、麻黄含有漢方薬の代表として、麻黄湯、及びエフェドリン除去麻黄に置きかえた麻黄湯を用いてin vivoにおける耐性獲得肺がん細胞によって形成された腫瘍増殖に対する単独効果及びエルロチニブとの併用効果を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画通り次年度に実施する研究に加え、今年度に実施できなかった動物実験を次年度に実施することとし、動物実験費用と人件費を次年度に繰越したため、「次年度使用額」を生じた。次年度に実行予定の研究費の概要は以下の通りである。 (1) 細胞実験及び動物実験に関連した研究費:細胞培養関連の消耗品、培地、電気泳動関連試薬、抗体や検出試薬、PCR関連試薬等の購入を予定している。また、ヒト肺がん細胞株の移植用ヌードマウスの購入と飼育に要する費用及び、腫瘍の免疫組織学的解析のための腫瘍組織のパラフィン包埋切片の作製を受託にて行うための受託費用を予定している。 (2) 人件費:動物実験補助の適任者の採用に時間を要し、採用開始時期が当初計画より遅れた分、人件費を次年度に繰り越した。なお、本年3月に研究補助員を採用したが、3月分の人件費は、北里大学の規程により翌月25日支払のため、人件費は全て次年度の研究費として予定している。 (3) 旅費及びその他:分担研究者が、第72回日本癌学会学術総会(横浜・平成25年10月3日ー5日)で研究成果発表予定のため、出張旅費を予定している。また、論文投稿のための英文校正費用、投稿料、別刷り代等を予定している。
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