本研究では関節拘縮の分子メカニズムの解明と新規治療概念の構築を目的としている。 1)マウス関節不動化モデルをもちいて組織学的および分子生物学的に検討したところ、関節拘縮の病態の中心が滑膜の線維化にあること、線維化をきたす疾患でも誘導されるCTGFやVEGFの発現が滑膜線維化の進展に伴い上昇すること、さらにこれらの分子の発現を誘導する分子HIF-1αの転写活性がきわめて早期から上昇することなどが明らかとなった。とりわけCTGFやVEGFについては、Real-Time PCR法で遺伝子発現の上昇を認めるだけでなく、線維化の進展に伴い発現細胞の分布が滑膜内皮表層から脂肪性滑膜内へ広がっていくことも、免疫組織化学的染色において明らかとなった。CTGF、VEGFの転写を促進するHIF-1αは固定3~5日後に遺伝子発現が上昇し、同時に転写活性がも高まることがELISA法の結果から見いだされた。
2)そこでHIF-1αをターゲットとしてデコイ型核酸医薬を用いた、関節拘縮の新規治療法の開発について検討した。なおこれについてはマウスでの検討は困難であったため、ラット関節不動化モデルを用いて検討を行った。その結果ラット関節不動化モデルにおいてもマウス同様に関節可動域の制限や滑膜の線維化などがみられた。一方でHIF-1αに対するデコイ型核酸医薬を関節内に投与されたラットにおいては、不動化による可動域制限や滑膜の線維化はみられず、HIF-1αの転写活性が抑制され、CTGFやVEGFの遺伝子発現上昇も抑制されていた。これらのことからHIF-1αがkey moleculeとして作用することで関節拘縮の病態が進展すること、またHIF-1αのデコイ型核酸医薬もちいた治療法は関節拘縮の治療においても有効であることが示唆された。
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