研究課題
本研究の目的は、脳の神経ネットワークやシナプス機能の変化を鋭敏に捉える事のできる脳磁図を用い、PiB-PET によるアミロイドイメージングと組み合わせることによって、アルツハイマー病(AD)の早期診断、特に認知症発症前の軽度認知障害(MCI)の段階や、更には臨床症状がまだない前臨床(preclinical)段階での診断に役立つ機能的バイオマーカーを明らかにしていくことである。前年度の研究では、AD7名、MCI12名、健常高齢者(NC)33名を対象に、正中神経のペア刺激による脳磁図誘発反応の回復曲線(SEF-R)を用いて大脳皮質の興奮性を評価し、[C11]PiB-PET検査による脳内アミロイド沈着の程度との関連を検討したところ、AD及びMCI群では、NC群よりも有意に体性感覚野皮質の興奮性が高まっており、一次体性感覚野の興奮性が増大していることが示された。更に、この興奮性増大の程度は、一次運動感覚野のPiB集積度と有意な正の相関があることも示された。そこで今年度は、エビデンスレベルを高めるため、対象者数をAD10名(全例PiB陽性)、MCI21名(12名がPiB陽性)、NC45名(9名がPiB陽性)に拡充して検討を行った(方法の詳細は前年度報告書に記載)。その結果は前年度と同様で、ADやアミロイド陽性のMCIでは体性感覚野の皮質興奮性が高まっており、局所のPiB集積度と有意な正の相関があることが認められた。これらの結果は局所のアミロイド蓄積がその部位の皮質の電気的興奮性を高めることを示すもので、ADの治療モニタリングの候補のひとつと期待されるだけでなく、ADの病態生理を把握する上でも重要な知見であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
局所のアミロイド沈着が同部位の大脳皮質の興奮性をきたすことを示す結果を、更に高いエビデンスレベルで確認することができた。今年度までの研究で得られた知見は、ADの病態生理の理解を深めるのに役立つだけでなく、ADの治療モニタリングの候補のひとつとしても期待できることが示唆された。
今後は、ADの前臨床段階での診断や病態把握に役立つ機能的マーカーも積極的に探索していく。具体的には、PiB-PETでアミロイド沈着が陽性と判断された認知機能正常の高齢者の安静時脳磁場活動から、脳波の機能的連結や、パワースペクトラム等を詳細に解析し、アミロイド陰性の認知機能正常高齢者のデータと比較することにより、ADの前臨床期に脳内に生じる機能変化を捉えて評価していく予定である。(次年度の研究費の使用計画)PETの薬剤合成や脳磁図測定に必要な電極等、消耗品類の購入、被験者に対する謝金等。また、難易度が高く複雑な脳磁図のデータ解析を効率的に行うため、海外研究者を招へいしてデータ解析用のソフトウエアも開発する。
海外共同研究者の招へい旅費として確保していたが、先方の都合によりキャンセルとなったため。
H27年度改めて招へいする予定。
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