研究課題
癌化学療法の問題の一つに、治療により薬剤耐性細胞が出現し、再増殖を来すことがあげられる。そのため抗癌剤への感受性や耐性に関する分子機構の解明は非常に重要である。一般に飢餓状態におかれた細胞は、不足したアミノ酸等を補う反応としてオートファジーが起こる。しかしオートファジーは飢餓以外にも、低酸素、DNA損傷、酸化ストレスなどによっても誘導され、細胞質内蛋白質の品質管理、細胞分化、免疫制御などの様々な生理的役割が推測されている。また、オートファジー制御遺伝子であるBeclin1やAtg7 などのノックアウトマウスでは発癌が見られ、癌抑制遺伝子としての機能も推定される。しかし一方で、オートファジーは腫瘍細胞が血管新生による栄養供給を受けるまでの栄養補給源として機能することや、抗癌剤抵抗性を助長する可能性も指摘されている 。このように現時点では、オートファジーが抗癌剤効果に与える影響は抗癌剤や癌細胞の種類などにより、相反する現象が知られており、その分子機構は十分に解明されて いない。RNA結合蛋白質は、mRNAのスプライシング、安定性及び翻訳効率の調節などの転写後遺伝子発現調節において重要な働きをしている。以前、申請者らはRNA結合蛋白RBM5が、癌抑制遺伝子p53の転写活性を亢進させることを報告した。そこで本研究では、RBM5が関与するオートファジー制御遺伝子を検索し、抗癌剤感受性あるいは耐性に与える影響を検討した。今回の研究では、RBM5の発現量を変化させることにより、オートファジー制御因子の一つであるp62の発現量が変動し、5-FUなどの抗癌剤感受性に影響を与えることを見出した。またオートファジー阻害剤を癌細胞に加えると、抗癌剤の効果を増強できることが判明した。今後は、癌細胞内においてRBM5によるp62の発現調節機序を解明し、抗癌剤耐性克服への応用へ発展させていきたい。
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Pathol Res Pract.
巻: 210 ページ: 440-443
10.1016/j.prp.2014.03.007