研究概要 |
本研究は、胃粘膜内へのHelicobacter pylori(HP)感染における上部消化管疾患(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌など)の多様性を規定する因子の一つとして考えられているレニン-アンジオテンシン(renin-angiotensin, RA)システムの胃粘膜内における生理活性メカニズムを、胃癌細胞株あるいは動物スナネズミモデルにHPを感染させることによって解明することを目的としている。更に、近年増加するNSAIDsや低用量アスピリン(LDA)内服者の消化管粘膜傷害の発症にかかわると考えられるHPの病原因子(cagA, vacA, oipA, dupAなど)の影響についても同時に解明する計画をたてている。その中で、RAシステム阻害薬であるアンジオテンシ変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)投与することで、胃粘膜内の抗炎症作用や化学発癌予防効果についても評価し、高齢者社会を迎える中での同薬剤投与による胃癌発癌予防の可能性を探ることも目的として立案された。 本研究では、HP非感染スナネズミと感染スナネズミで、RAシステムの各因子の発現が有意に異なり、その発現レベルも感染後の経過により異なることが示された。それは、病理組織学的に胃粘膜内の単核球を含めた炎症細胞浸潤の程度とも明らかに相関をしており、胃粘膜内の炎症性サイトカイン値とも有意に相関していた。 また、同時にNSAIDsや低用量アスピリン(LDA)に関連した胃粘膜傷害を引き起こしうる宿主側の因子として考えられる薬理遺伝学的な遺伝的な因子を同定し、最適な予防方法を構築することも調査も行っており、その候補遺伝子としてLDA内服中のSLCO1B1 (rs4149056) TT型が、消化管粘膜傷害の危険を増加させる遺伝子である可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
LDAを内服させたスナネズミモデルにHP 7.13のwild typeとともに合計4種類のHP病原因子のKO菌を感染させ、感染後12ヶ月まで胃粘膜の粘膜傷害の程度や炎症程度を病理組織学的に評価するとともに、RAシステムの各分子、炎症性サイトカイン、増殖因子のmRNAとタンパク発現程度を経時的に検討する。また、ACE阻害薬やARBを同時投与し、それらの薬剤による胃粘膜傷害予防作用や抗炎症作用の評価を同時に行う予定となっている。 今年度は、HPの病原因子のKO菌を作成し(HP 7.13 wild type strain, -cagA-KO, -oipA-KO, -vacA-KO, -babA-KO strains)、生後6週齢雄性スナネズミ(MGS/Sea)に感染をさせる。HP陰性Control群、HP陰性LDA群、HP陽性Control群、HP陽性LDA群、HP陽性LDA-cagA群、HP陽性LDA-oipA群、HP陽性LDA-vacA群、HP陽性LDA-babA群の8つの群を作成し、感染1, 3, 6, 9, 12ヶ月後の胃粘膜傷害程度、病理組織学的な胃粘膜内の萎縮程度や炎症程度、胃粘膜中のmRNAやタンパク発現の経時的な変化[RAシステム(アンジオテンシノーゲン、レニン、AGI、AGII、AT1受容体、ATII受容体),炎症性サイトカイン(IL-1,-6,-8,-10,-17,-18, TNF-α), 増殖因子(VEGF, EGF)]を評価する予定である。 また、ACE阻害薬とARBにより化学発癌予防効果の検討として胃粘膜培養細胞(RGM-1細胞)と胃癌細胞株(AGS細胞、MKN45細胞)にHPのwild type, 上記病原因子-KO菌を感染させることによりRAシステム, 炎症性サイトカイン, 増殖因子の発現を評価するとともに、LDAを処理した際における上記分子の変化を、LDA投与量別にも評価をする予定である。
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