研究課題
国際がん研究機関(IARC)は、 アルコール飲料に含まれるエタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドが、食道扁平上皮癌の明らかな発癌物質と認定しているが、アセトアルデヒドがどのように発癌に関与しているかいまだに十分解明されていない。本研究は、食道扁平上皮におけるアセトアルデヒド暴露によるDNA損傷、遺伝子発現異常を検討し、発癌メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目的とする。平成25年度は、主たるアセトアルデヒド代謝酵素であるALDH2の欠損マウスを用いて、エタノール自由摂取後の食道内DNA損傷(γ-H2AX)を野生型マウスと比較し、ALDH2の欠損マウスでは、食道扁平上皮の基底層および傍基底層にγ-H2AX発現が有意に高く発現していることを明らかにした。また、ALDH2の欠損マウスの食道上皮にはアルデヒド由来DNA損傷(N2-ethylidine dG)が野生型に比較し優位に高く検出された。一方、ALDH2野生型マウスでは、エタノール投与により食道扁平上皮内のALDH2 発現が誘導されていた。これは、これまで、ALDH2は誘導されないとされていた定説を覆す新しい発見である。すなわち、これまでは、ALDH2欠損が細胞障害を引き起こしアルデヒド関連発癌機序と考えられてきたのに対し、ALDH2発現誘導が、アルデヒド関連発癌を抑制すると説明できることになる。そこで、ALDH2遺伝子をsiRNAを用いてノックダウンし、hTERT遺伝子を導入した不死化食道扁平上皮細胞におけるアルデヒド暴露後のN2-ethylidine dG量を比較検討した。その結果、ALDH2野生型細胞であっても、ALDH2ノックダウンによって有意に高いDNA障害が起きていることが明らかになった。すなわち、ALDH2機能低下では、DNA障害が起きやすいことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度の研究実施計画に記載した、2)ヒト食道正常扁平上皮におけるアセトアルデヒド暴露後の細胞内分子変化の検討」は、アセトアルデヒド暴露後のDNA障害に関して順調に解析が進んでいる 。また、ヒト食道における前がん病変とされる異型細胞における遺伝子変化に関与して、次世代シークエンサーでエキソーム解析を進めているが、特定の遺伝子変化の同定には至っていない。一方、研究計画書に記載した「長期的アセトアルデヒド暴露ヒト食道正常扁平上皮細胞における分化能の変化」に関しては、hTERT遺伝子を導入した不死化食道扁平上皮細胞に290日200μMのアセトアルデヒド長期暴露細胞のクローンを樹立し、親株、アセトアルデヒド非暴露コントロール細胞と合わせてエキソーム解析を進めている。
これまでの研究によって、アセトアルデヒド暴露によって食道扁平上皮にアセトアルデヒド由来DNA損傷が起きることが明らかになった。また、これまで、ALDH2は誘導されないとされていたが、アセトアルデヒド暴露によってALDH2が誘導されDNA障害を軽減することも明らかにした。今後は、アセトアルデヒド由来のDNA損傷がどのような遺伝子変異を引き起こすかを検討し、アセトアルデヒドによって発癌が 引き起こされる標的分子を同定する。また3次元培養によって、アセトアルデヒド暴露細胞が扁平上皮の組織構築において異常を来すかどうかを検討するとともに、アセトアルデヒドによる標的分子のカスケードを阻害することで組織の異形成を抑制できるかどうかを検討する。
必要な試薬が充足したため。次年度の研究経費として使用する予定である。
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Journal of Cancer Therapy
Cancer science
Dis Esophagus
巻: 27 ページ: 112-115
10.1111/dote.12041