研究課題
胃癌は、未だ死亡率の高い癌の一つである.その大半は、転移を有する進行胃癌の状態で診断されることから、根治手術の適応とならず効果的な治療法も確立していないため5年生存率は2~15%と予後不良である.癌細胞において糖鎖の合成異常が生じることが知られている. なかでも、Sialyl-Tn抗原(Neu5Acα2 -6GalNAcα1-O-Ser/Thr)は、STn抗原、CD175sとも表記される単純ムチン型糖鎖抗原であり、serineもしくはthreonineとGalNAc が結合したTn 抗原がシアル化され生成される.正常細胞では、GalNAcに糖鎖がOグリコシド結合し、これを基盤として糖鎖が伸長し様々な糖鎖が合成される.しかし、癌細胞で見られるGalNAcのシアル化は、Oグリコシド型の糖鎖の伸長を効率的に遮断する. 従って、STnは正常細胞には発現せず胃癌、大腸癌、卵巣癌、乳癌、膵癌など様々な癌腫で強く発現し、癌の浸潤や転移とも強く相関すると報告されている. 実際に、血清STn値は癌の悪性度や転移能を示す予後因子としても使われている.STnの生成は、主にserineもしくはthreonine残基であるTn 抗原にシアル酸をα2-6結合させるシアル酸転移酵素であるST6GalNAcⅠによって行われる.そこで、今回我々はST6GalNacⅠを標的とする胃癌抗転移治療の開発を試みた.まず、in vitroの検討においてST6GalNacⅠの発現をsiRNAで抑制したところ、胃癌細胞の増殖能、遊走能、浸潤能が強く抑制されIGF-1の産生とこれに関わるSTAT5bのシグナル伝達経路が抑制されることを示した. また我々は、マウスの胃癌細胞腹膜播種モデルに対してST6GalNAcⅠsiRNA-liposomeを腹腔内投与することにより、癌の転移抑制と生存率の改善が得られることを示し、ST6GalNAcⅠは胃癌の転移に対する治療標的になる可能性を明らかにした.
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Gastric Cancer
巻: 23 ページ: epub
10.1007/s10120-014-0454-z)