研究課題/領域番号 |
24590943
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
増田 清士 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 講師 (00457318)
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研究分担者 |
桑野 由紀 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (00563454)
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キーワード | RNAプロセシング / 選択的スプライシング / HIPK2 |
研究概要 |
これまでの研究過程から、選択的スプライシング因子SRSF3をノックダウンすると、p53活性化因子であるhomeodomain-interacting protein kinase 2(HIPK2)のexon8の5´ 81塩基をスキップした新規アイソフォーム(HIPK2-Δe8)が誘導され、KRAS、FOS、Cyclin D1の発現がmRNAレベルで抑制されること、HIPK2-Δe8発現細胞でp53非依存性にアポトーシスが誘導されることを見いだした。これらの分子機構を明らかにするために本研究期間で以下の研究を行った。 1.FLAGタグを付加したHIPK2-Δe8発現プラスミドを大腸がん細胞株HCT116に遺伝子導入し、FLAG抗体を用いて免疫沈降を行ったところ、22 kDa付近にHIPK2-Δe8特異的なバンドを認めた。質量分析を用いて解析したところヘテロクロマチン構成因子であるheterochromatin protein 1 γ (HP1γ)を同定した。一方、HIPK2-Δe8と他のHPファミリー蛋白質(HP1α、HP1β)との結合は確認されなかった。また、蛍光顕微鏡を用いた検討から、HIPK2-Δe8 と HP1γは形態的に核内でスペックル状に発現し共局在することを確認した。 2. HEK293T 細胞に HIPK2-Δe8を過剰発現させると、 HP1γはリン酸化が促進された。このリン酸化は既知のアミノ酸(Ser83)と異なる部位であることを確認した。HP1γはリン酸化修飾を受けるとヒストンH3(K9me3)から遊離する。HIPK2-Δe8発現細胞でHP1γはヒストンH3(K9me3)から遊離することを確認した。以上の結果からHIPK2-Δe8はHP1γとの結合し、リン酸化を促進することでクロマチン構造変換を制御し、様々な遺伝子発現を制御している可能性が示唆され、現在分子機構の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究推進方策として、以下の研究を計画していた。 1.HIPK2-Δe8と結合する転写因子を質量分析を用いて網羅的に行う。また、同定された転写因子のHIPK2-Δe8によるがん抑制機能への影響を細胞周期およびアポトーシスに着目して検討を行う。 2.HIPK2Δe8がmicroRNA遺伝子のトランス因子を制御し、microRNAの細胞内発現を制御している可能性が示唆されることから、HIPK2-Δe8の過剰発現による細胞内microRNAの発現変動を網羅的に解析する。 1に関しては、FLAG抗体を用いた免疫沈降で22kDa付近に特異的なバンドを認め、質量分析からHP1γを同定した。HP1γは これまでDNA 修復過程で1)ユークロマチン化の促進、2)DNA損傷部位への DNA修復因子の誘導、3)DNA修復因子の転写伸長反応制御を行う因子であることが知られている。当該研究結果からHIPK2Δe8-HP1γ経路はクロマチン構造変換を制御することで細胞周期制御やアポトーシス制御に関与する遺伝子の転写を制御していると考えられ、現在分子機構の解析を進めている。2に関しては、HP1γがpre-miRNAの転写を制御している可能性が考えられることから、HIPK2-Δe8発現細胞よりRNAを抽出し、マイクロアレイを用いて網羅的解析を行う予定としている。このように当初計画をおおむね順調に達成している。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究を推し進めるとともに、以下の研究を行う。 1)HIPK2-FLを分子標的としたsiRNAの有効性の検討 これまでの研究成果から大腸がん細胞でHIPK2-FLを特異的にノックダウンすると、細胞周期停止とアポトーシスが著明に誘導された。in vitroで確認されたHIPK2-FL siRNAの大腸がん抑制効果を、ヌードマウスを用いてin vivoで検討する。まず、HCT116細胞をヌードマウスの皮下に移植し、腫瘍を形成させる。腫瘍が40mm3に達した段階で、コントロールsiRNA投与群、HIPK2-FL siRNA投与群、HIPK2-all siRNA投与群に分け、各々腹腔内投与を行い、腫瘍の大きさの変化を経時的に観察を行う。また、これらの腫瘍を摘出し、アポトーシス細胞数の変化を評価する。アポトーシス細胞はTUNEL法を用いて行う。 2) ヒトがん組織における再現性の検討 各種臓器由来がん組織および正常組織切片を搭載したTissue arrayと臨床検体を用いて、得られたデータの臨床医学的意義を検討する。HIPK2-FLおよびHIPK2-Δe8特異的なプローブを用いてin situハイブリダイゼーション法を行い、がん及び正常組織でのHIPK2 isoformの発現パターンを網羅的に解析する。また、組織からRNAと蛋白質を抽出し、ウェスタンブロット、ノーザンブロット法を用いて、がん化との相関関係を確認する。
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