研究課題/領域番号 |
24590944
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
馬場 英司 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00315475)
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研究分担者 |
新納 宏昭 九州大学, 大学病院, 講師(Lecture) (20380636)
赤司 浩一 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80380385)
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キーワード | エクソゾーム / 消化器癌 / 癌幹細胞 / 微小環境 |
研究概要 |
本研究ではH24年度より消化器癌細胞由来エクソゾームの生体内機能を明らかにするため、(1)消化器癌細胞由来のエクソゾームが特異的に含んでいるマイクロRNA(あるいは他の核酸)を同定すること、(2)およびこの疾患特異的なマイクロRNAが機能を発揮する場として、消化器癌組織の中にある癌幹細胞とこれを取り巻く微小環境(ニッチ)との相互作用におけるエクソゾームの役割を明らかにすることに取り組んできた。(1)について、インフォームドコンセントを得た消化器癌患者の末梢血よりエクソゾームを調整し、健常人末梢血エクソゾームとのマイクロRNAアレイによる比較により、疾患特異的なマイクロRNA候補を複数選別した。これらは別に収集された健常人、患者血清を用いたPCR法による確認が必要であり、今後も新たな検体による候補マイクロRNAの同定とその確認作業の継続が必要と考えられる。(2)については、消化器癌手術検体より消化器癌幹細胞とニッチを形成する細胞を個別に調整・評価し、機能解析をすることが必要である。分離した細胞を既報の幹細胞マーカー分子を指標にFACSにてソーティングを行い、この幹細胞性は免疫不全マウスにおける継続的な造腫瘍能、in vitroにおけるオルガノイド形成能にて確認を行った。手術検体から分離された癌幹細胞を、特にin vitroにおいて安定して継代培養することにより、エクソゾーム等を介するニッチと癌幹細胞との関連の解析が可能となると考えられる。大腸癌の幹細胞ではエクソゾームを含む可溶性因子による間接的な刺激により上皮間葉転換の現象がコントロールされることを見いだした。今後はさらに、ニッチから供給されるエクソゾームや可溶性分子による癌幹細胞への影響を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
消化器癌細胞由来エクソゾームは患者血清中から検出可能である。これは平成21-23年度科学研究費基盤研究「腫瘍由来エクソゾームに含まれるマイクロRNAの機能解析と消化器癌診断への応用」において、安定して効率良い手法を確立したことから継続して実施している。マイクロRNAアレイによる疾患特異的マイクロRNAの選別には、複数のRNAが候補となるため多数の検体を用いた確認が今後も必要である。 一方、調整された腫瘍特異的エクソゾームが癌幹細胞と微小環境との関係においてどのように機能するかを解析するには、癌幹細胞集団の調整、その幹細胞性の確認が前提となる。消化器癌において報告されてきたCD44、EpCAM、CD133などの癌幹細胞指標を用いて、消化器癌手術検体よりFACSソーティングを用いて癌幹細胞を回収し、これを免疫不全マウスに移植して連続的な造腫瘍能を確認した。エクソゾーム等を介した癌幹細胞と微小環境の解析には、in vitroの系の確立がより有用であるため、癌幹細胞からなるオルガノイドを長期間維持できる条件(可溶因子を含む)を検討しており、ほぼ安定して維持できる状況となった。この系を用いて大腸癌幹細胞では、ニッチからのエクソゾームを含む可溶性因子による間接的な刺激により、EMTがコントロールされることを見いだした。
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今後の研究の推進方策 |
消化器癌患者血清中には癌細胞由来エクソゾームが含まれているが、これらは遺伝的に多彩な癌細胞から産生されている可能性があり、均一ではないと予想される。従って本研究計画当初から実施している血清中のエクソゾームの解析に加え、例えば癌幹細胞と非癌幹細胞集団からそれぞれ産生されるエクソゾームを個別に測定する等、より詳細な解析が必要と考えられる。採取されたエクソゾームが含有する核酸と、産生する親細胞が含有する核酸のプロファイルの対応の確認が重要であるが、微量検体であるため、細胞側の解析には単一細胞PCR反応などの新たな解析手法を要する可能性がある。 今後の研究推進の方策としては、まず疾患特異的エクソゾームをより多く回収し、疾患のバイオマーカーとなり得るマイクロRNAの同定を継続して実施する。さらに癌幹細胞と微小環境との関係における、疾患特異的エクソゾームの機能を解明するために、上述のような癌幹細胞由来エクソゾームなどのより選別された腫瘍細胞集団を対象に解析を進めてゆく。
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