研究課題
IL-6は肝細胞癌(HCC)との関連も報告され、治療抵抗性との関与に関しては我々も報告してきた(Antiviral Therapy 2011; 16: 1081)。本研究では、IL6のもつ治療抵抗性機序に関して、基礎および臨床研究から下記の結果を得た。1)当施設および関連施設で施行したテラプレビル(TVR)併用3剤治療の治療効果は、高齢者、高度線維化症例で良好だったが、IL28B、コア70変異株では治療効果は有意に低下し、インターフェロン応答性のない症例ではSVR 14%と極めて不良であり、難治例克服にインターフェロン抵抗機序の解明は必須であることが確認された。2)HCVコア70変異株を用いた培養細胞系の検討では、 IL-6、SOCS 3の発現亢進、ISG抑制がみられ、コア変異株ではウイルス粒子形成、分泌ともに低下し、小胞体(ER)ストレス蛋白の発現誘導がみられることを報告したが、臨床的にはインターフェロン感受性が比較的高い遺伝子型での解析であったことから、臨床的に治療抵抗性である1b株作成に着手した。これまでの試みでは作成困難であったが、培養細胞の変更、各種条件を変えることで、全長1b株での安定したコア変異株を作成する事ができた。3) 当院にて2009年以降、慢性肝疾患の精査加療で通院された患者180例の凍結保存血清を用いて、疾患および臨床背景別にIL-6を比較検討し、肝細胞癌(HCC)に関与する因子について解析したところ、発癌寄与因子として、多変量解析では年齢、性別、HL、喫煙が抽出されたが、血清IL-6(P=0.269)は抽出されなかった。当院データでも血清IL-6は、閉経後の女性や、男性で高く、発癌率の年齢差・性差に関与する可能性が示唆されたが、非常にバラツキが大きく、飲酒や感冒などで容易にデータが変動する事が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
HCV治療薬が急速に進歩する中で、最新の臨床データにアップデートするとともに、臨床から抽出される課題を基礎的研究につなげる事が十分できている。今回最も大きな成果として、これまでどの施設でも安定した系が報告されていない、より臨床に近い1b株作成に着手し、種々の条件の調整の上に安定した培養細胞系の確立に成功し得た。同時に作成したコア変異株とともに、今後小胞体ストレスや、各種関連遺伝子と治療抵抗機序の関連に関しても順調に解析がすすむものと期待する。
IL-6は慢性肝疾患における発癌と関連している可能性があり、更なるメカニズムの解明が、新たな診断・治療法の開発に繋がりうるが、多機能サイトカインであり、同一個体の中でも変動の激しい数値である事が、これまでの測定結果から判明した事から、これまで得られた知見をもとに基礎的研究につなげ、治療抵抗機序に焦点をあてた解析を進めていくこととしている。
試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
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Hepatology
巻: 58 ページ: 1253-62
doi: 10.1002/hep.26442.
Journal of Gastroenterology