研究実績の概要 |
平成26年度は、Mitochondria localization signal(MLS)であるsuperoxide dismutase 2(SOD2)とTFAMのクローニング、ならびにレオロジー解析に基づく新たな高効率HDの開発を試みました。 申請者らはマウスに対してコンピューター断層撮影を実施することで、腹腔内臓器を露出させるなどの外科的操作の加わらない状態におけるHD時の詳細な血流動態を世界で初めて検討しました。その結果、HDによる膨張率が240%とされてきたこれまでの報告と異なり、肝臓の腫大は注入速度非依存性で、HDでも170%前後であることが示されました。このことからHDが遺伝子を細胞内へと誘導する上で脈管方向の進展力に加え脈管に直行するベクトルが重要であると考え、高弾性溶液を用いた導入を試みた結果、HDに用いられる注入溶液量と速度を半減させても、生理食塩水を用いた場合に比較し1,000倍から10,000倍と、HDに匹敵する導入効率の得られることを発見しました。 以上の結果から、通常のHDでは細胞膜を通過後さらにミトコンドリアの内膜と外膜を通過させて遺伝子を導入することが困難であるのに対し、高弾性溶液を用いることにより細胞膜通過後にもさらにミトコンドリアの膜小孔を通過させられる可能性が示唆されたことから、本研究で構築したミトコンドリア発現ベクターと高弾性溶液を用いたHDによるミトコンドリアへの遺伝子導入を検証することが今後の課題です。 さらに、注入溶液量ならびに速度の半減したHDで十分な遺伝子導入が達成される場合、大動物におけるHD環境の局所的な再現のための注入制御と再現性の担保が格段に容易となります。したがって本研究の成果は、単にミトコンドリアへの遺伝子導入研究を促進するのみならず、非ウイルスベクターを用いた通常の遺伝子治療全般に関する基礎的、ならびに臨床的な研究の更なる発展を促進する基盤となることが期待されます。
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