研究概要 |
今年度についてはまずLASC(低血清培養脂肪由来幹細胞)の肝不全モデルにおける肝細胞障害抑制効果につき次の2点から検討を行った。 (1)In vivoモデル (方法)ConA肝障害モデルマウスにおいて、ConA投与後30分後にLASC投与する群と非投与群に分け、8時間後、24時間後の血清ALT値を測定、また24時間後における肝内免疫系細胞表面マーカー、サイトカインmRNAを測定した。また、四塩化炭素投与マウスにおいて24時間後の血清ALT値、肝内免疫系細胞表面マーカー、サイトカインmRNAをLASC投与群と非投与群で比較、検討した。(結果)ConAモデルマウスにおいては血清ALT値は投与8時間後での血清ALT値がLASC投与群で有意に低値であったが、その差は24時間後には見られなくなった。一方、肝内mRNAレベルはCD3,CD4,CD8は抑制されているものの、TNF-α,IFN-γ,IL-1α等の炎症性サイトカインの抑制は見られなかった。四塩化炭素モデルマウスにおいては、24時間後の血清ALT値はLASC投与群で有意に低値、またCD3,CD4,CD8,CD11b,CD11cとリンパ球系のみならず、抗原提示細胞系のマーカー、またTNF-α,IFN-γ,IL-1α等の炎症性サイトカインのmRNAも抑制されていた。 (2)in vitroモデル (方法)LASCの免疫担当細胞における直接の抗炎症効果を見るために、マウス脾細胞を採取、非特異的刺激下(PHA,ConA,PMA+Ionomycin,LPS,CD40L)でLASCと共培養し、BrdU incorporation assayにて共培養なしの群と脾細胞増殖に与える効果を検討した。(結果)LASC共培養群ではPHA刺激下での脾細胞増殖を有意に抑制、その他の刺激でもLASC濃度依存性の抑制を示したが有意な差ではなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在得られているLASCの免疫調整効果については、今後肝浸潤細胞のフローサイトメトリーによる投与群と非投与群での検討、細かいタイムコースの設定(もう少し長期に観察した実験)、またHBVトランスジェニックマウスモデルが準備可能となった時点でよりヒトの免疫学的肝不全により近いモデルでの有用性、メカニズムの検討を行う。 また、in vitroモデルにおいてはある程度の免疫調整能を増殖能の抑制によって示せているので、実際の機能因子(サイトカイン、ケモカインレセプター)の変化、差異を蛋白レベル(ELISPOT,上清中ELISA)やreal-timePCRによる定量的分析をLASC共培養群を非共培養群で比較する。また反対にリンパ球側のみならずLASC側から出ている発現表面マーカー、液性因子等も共培養群と非共培養群で比較検討、いかなる因子がこの免疫調整機能に関与しているかを明らかにしていく。 またまだ現在着手できていない肝再生の観察、およびメカニズムの検討については、まずは各肝不全モデルにおける50%程度の致死投与条件の設定を行い、それらがLASCの投与により生存率の改善をきたすものか、その際に肝再生の程度をBrdU染色で評価、また各分化段階についてはGFPトランスジェニックマウス由来のLASCを投与することでGFP陽性細胞の肝内での分布、ならびに各分化段階を各種の分化マーカー(AFP,CK19,Albumin)による免疫染色を行い、これらの細胞がもともとの肝局所由来のものなのか移入細胞の分化によって得られたpopulationなのか、またその際に肝局所への移入細胞のmigrationの抑制実験(候補としてはSDF-1,βインテグリン等)により、これらの変化がどうなるかを検討し、実際の細胞移入の効果のみならずそのメカニズムについても検討していく予定。
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